黒水晶 〜 オニキス 〜 の姫君


外に出たシャルミラは、ベンチに腰を下ろした。今手にしているこれは、感じているよりもずっと重く大切なものだ。

「心の宝石か。上手い例えですね」

宝石よりもキュリオの心は純粋で美しいと思う。

「おや、一人?」

「アクア」

知った声に目を向ければ、思ったとおりアウラクアがいた。アウラクアはそのまま隣に座る。

そのアウラクアに、シャルミラは単刀直入に訊いた。

「キュリオをコンテストに参加させたの、あなたですね」

「え、、、、」

見つめたまま、アウラクアは固まった。

「他に誰がいますか」

「まさか、、、いたの?」

「気がついたのはランスだけのようでしたが」

「ランスが気づいてた?それでよくまあ、、、」

シャルミラがいたことにはもちろん驚いたが
気がついていない顔であの場にいたランスも相当なものだと思う。

「あれだけそ知らぬ顔が出来るのも大したものだね。
 まさか、キュリオには言ってないだろうね」

「いたとは伝えていませんよ。けれど、あなたがそれを言えますか?」

「シャルミラ、もしかして怒ってる?」

「、、、、、」

「あ、あのさ」

珍しく機嫌の悪そうなシャルミラに、アウラクアが焦る。

「確かに方法は気に入らないかもしれないけど
 キュリオの気持ちは汲んであげてよ。ふざけてなんかない。
 どれだけ懸命だったかは、みんな見てたんだから」

「別に、怒っていませんよ」

シャルミラは表情を緩め微笑んだ。

「、、、脅かさないで」

「これくらいはね」

「こっちきて、性格変わった?」

「そのつもりはありませんが」

「多少は変わっててもいいかと思ってたけど」

「どういう意味でですか」

「いつだって静かで穏やかで。感情が表に出たの滅多に見ないからね。
 でも感情が無いわけじゃないだろう。もう少し、怒ったり笑ったりとかさ」

「その時はそうします」

シャルミラは通りを歩く人々に目を向けた。

「私達とキエヌで生きる人々と
 どれだけの違いがあるのでしょうね」

「シャルミラ?」

「同じように泣いて笑って、懸命に生きている。
 もしかしたら、今目の前を通り過ぎた人が
 向こう側で生きているのかもしれない」

「どうしたの、急に」

「いえ、何がどうということではないけれど」

ランスの言葉が、シャルミラの中に深く残っていた。

交わることの無い世界だとしても、同じ命には変わりない。

そう考えると、不思議と愛しくなってくる。

それが表情に出たのか
シャルミラはいっそう優しい眼差しになった。

そして、アウラクアも同じように行き交う人々を眺めた。

「昔は、互いを知っていたって聞いたことあるよ」

「本当ですか?」

シャルミラは驚いて見返した。

「争っていた頃よりも前の話だから、本当かどうかわかりはしない。
 けど、言い伝えとしては残ってる。聞いたことない?」

「ええ、初耳です」

「大昔は同じ場所に住んでいたのかもしれないね、あたしたち。
 世界は2つじゃなくて1つだったのかもしれない。それこそ、遠い昔の御伽噺にしかならないけど」

「素敵な御伽噺だと思いますよ」

いつか同じ空を見ることがあるのだろうか。いや、知らないだけで同じ空を見ているのかもしれない。

「生きてるあたしたちに大して変わりないなら、こっちもあっちも似たような世界なんだろう。
 生きるために懸命で、時には命がけにならなきゃいけなくて。 
 涙のほうが多いかもしれない。けど、この空みたいに綺麗に晴れる時だってある。
 澄んだ空を見る時のために生きるのも、悪くはないと思うよ」

「ええ。本当にそう思います」

高く綺麗に澄み渡った空。心地いい風が、人々の間を吹き抜けていった。


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