



黒水晶 〜 オニキス 〜 の姫君
3日後のランスの店。
先に来たのはアウラクアだった。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。キュリオはまだみたいだね」
「ええ」
「どうぞ。お砂糖いりますか?」
「そのままでいいよ。ありがとう」
出されたお茶を手にする仕草も優雅なものだった。
纏っているのはロングドレスなのだし、このままで十分美人で通るだろうと、2人は思う。
カップ半分減ったところで、扉が開いた。
「こんにちは。待たせちゃったかな」
「今来たところ。大丈夫」
「始めますか?それとも一息入れますか」
「えっと、、」
「時間あるなら、一息いれたら?」
「じゃあ、僕にももらえる」
「はい。新しい葉で入れますね」
ほどなく、ふわりといい香りがたった。
「どうぞ」
「ありがとう」
「どうして女神と青年のお話止めてしまったんでしょう」
「引き受ける人がいなかったんじゃないかな。
ま、僕のところにきても断るけど」
「ランス様は、青年役やったことないんですね」
「話がきたこともないよ」
「ランスなら、女神もできそうだよね」
キュリオの一言に、ランスの手が止まった。
「あ、別におかしな意味じゃないよ。
僕よりも、アクアさんや、ランスのほうが綺麗だなって」
「そうだね、、、。確かにドレス着ても違和感なさそう。
土台が整ってるんだから、貴婦人になれるんじゃない?」
ランスを見るアウラクアの中では
ドレス姿のランスが浮かんでいるのかもしれない。
それを払うように、ランスはけん制を入れる。
「何を考えているか知りませんが、話せる場所を提供しているだけですからね」
「もったいない」
「どう言われても、あなたに任せることだけはお断りします」
「ま、とりあえずおいといて」
諦めそうに無いアウラクアだったが、ひとまずキュリオのほうに戻した。
「じゃあ、そろそろ。
かさばるから、カップは一回下げてもらえるかな」
空いたテーブルに、どさりと大きな包みが乗った。
「、、、、まさか、ドレスじゃないですよね」
目の前の包みを見ながらのキュリオの声は
いささかトーンが落ちていた。
「ドレスじゃないけど、キエヌではあまり見ないかな。
いろいろ言うより、着てごらん。着替えはどこならいい?」
「更衣室が別にあります。あちらでそうぞ」
「着付けは教えたほうが良いだろう。行こうか」
「、、、、、、はい」
先に立ったアウラクアの後にキュリオも続いた。
「アウラクア様が一番楽しそうに見えるの、気のせいでしょうか」
「間違ってないよ。真面目に楽しんでるんだろう」
間もなくアウラクアが出た。
「よかった、似合いそう。後は髪の色を変えて、、、、」
「、、、楽しんでますね。絶対」
「だろう」
2人は少しだけ、キュリオが気の毒になった。
待つことしばし。着替えを終えたキュリオが更衣室から出てきた。
「、、、、おかしくない」
「似合ってるよ。大丈夫」
アウラクアは満足そうに頷いた。キュリオの視線が、返答の無いランスとアージュに向く。
「キエヌでは見ない服ですね。ドレスとも少し違う気がしますし」
「似合ってますよ、キュリオ様」
キュリオはまだどこか不安げに自分のなりを見た。
長い袖に二重のスカート。だが、この服は確かにドレスとは違う印象を受ける。
「これ、何処で」
「キエヌを超えた先の町。あとは髪の色も変えてみようね」
「そこまでは」
引いたキュリオをアウラクアは引き戻す。
「どうせなら別人になるくらい変えちゃったほうがいいよ。それに何より」
アウラクアはキュリオの背に立った。
「ほら、そんなに萎縮しないで。背筋を伸ばす。
この手の衣装はね、真っ直ぐ胸を張って立ったほうが
絶対綺麗なんだから」
「、、、、、」
「いいかい。シャルミラの為だけじゃなく、自分の為にもだよ」
「アクアさん、、、、」
「白に生まれた黒。飛べない片翼。
シャルミラをこのキエヌに落としたのは自分。
今まで、ずっと引きずってきたんだろう?今だって」
「あの、、、、」
アウラクアの言葉が深く届く。
「そんなの全部捨てちゃいな。確かに変えられない現実はある。
だけど、それを負い目に感じる必要なんてない。
このキエヌでシャルミラと暮らすのに、何の不都合がある?」
「、、、、、」
「何でも考え方を変えれば、自分の心だって変えられる。
いや、自分の心は結局自分が変えるしかないんだ。
このコンテストで別人になって、負い目抱えた自分とさよならして、シャルミラのところへ帰りな」
「楽しんでるだけかと思ってましたが、それなりにいいかたなんですね」
多少の皮肉を含んだ褒め言葉だったが、ランスが感じたことは伝わったようだ。
「これでも真面目で通ってるんだけど」
「それは却下です」
「おやまあ」
「、、、アクアさん、ありがとう」
どこかに残っていた迷いも吹っ切れた。
そんな、澄んだ空のような表情だった。
「変われるような気がします。いい方向に」
「よかった。後は、、、、舞を一指し」
「、、、、何をするんですか、それ?」
「ほら、自己紹介代わり。
周りと同じじゃつまらないから、少し踊ってみるのはどう?」
「この服で?」
「こういう服だからこその形があるの。
翻る袖に風が流れる様は綺麗だよ」
キュリオはアクアの言葉を想像してみるが、首を横に振った。
「ぜんぜん想像つかない」
「教えるからとにかくやってみない?どうせなら優勝狙いで」
優勝は無謀だと思うが、何事もやってみなければ始まらない。
そう、今のキュリオは思えた。
「そうですね。結果はともかく、やれることやってみます」
「いい返事。それじゃ、、まずは」
アウラクラはキュリオの手を取りながら形を付けていく。後は任せようと、ランスとアージュは2人から離れた。
「その気にさせるの上手いね」
「でも、いいことだと思います。キュリオ様が変わっていけるのであれば」
「ま、言ってることは正しいし、これで余計な一言が無ければいい人ですむんだろうけど」
「キュリオ様、頑張って」
本番までは、あと7日。