


「あふ、、、」
ソファーで本を広げていたサリュから欠伸が落ちた。本を閉じるとそのまま横になる。
夜になると市場での声のことは忘れていた。うつらうつらとしたこの感覚が心地いい。
だんだんと瞼が重くなり、瞳を閉じた。と、ふわりと、何かが乗った。
「風邪をひきますよ」
「ん、、ありが、え?」
がばりと身体を起こして前を見れば、知らない相手が立っていた。
「眠るのなら、ベットに戻らないと」
「、、、、、」
「明日も寒くなりそうですし、暖かくしてくださいね」
「、、、誰?」
「ああ、お気になさらずに」
「ふざけるな!他人の家に勝手に入っておいて言えるか!」
「大きな声を出さないでください。説明はしますから」
「いいから出てけ!」
「いえ、それはできません」
いるのが当然とばかりにきっぱりはっきり言い切った。サリュが更に返そうとしたとき
「なに、大きい声出して」
シア部屋の扉を開けた。
「シア、待った」
「どうしたのよ。1人で騒いで」
「、、、1人?」
シアの言葉にサリュは隣を見る。確かに自分には見えているのだが、、、。
「1人じゃない。誰もいないわよ」
「、、、、、」
こうまでごく自然に嘘がつける性格ではない。
いや、それ以前に見えていたとしても嘘をつく理由がない。
だとすれば、シアには見えていないことになる。
「ねえ、、兄さん?」
シアのほうもなにやら不安になりサリュの目の前に来るが
隣の相手に気がつく様子はなかった。
「どうしたの?大丈夫?」
「ああ、、えと、、何でもない」
「(じ〜っ)」
「ほんとに、大丈夫。お休み」
「それなら、、いいけど。お休みなさい」
後ろ髪を引かれるような感覚を覚えながら、シアは部屋を出て行った。
「まさか、お化け」
今までそんなものに縁のなかったサリュは思わず下がる。
「私はあなたを守るのが役目。害をなすつもりなどありません」
「、、、守護霊ってことか?」
「それが一番わかりやすいかと」
夢なのか現実なのか、その境がわからなくなりそうだったがそんな中で一つだけ思い当たった。
「昼間の声、もしかして」
「はい。私です」
「、、、あのときは、ありがと」
「、、、サリュ」
「いや、助かったのはほんとだし」
「、、、いいえ。やるべきことをしたまでです」
微笑んだ相手に、何故か懐かしさを覚える。
「まあ、悪い相手じゃないっていうのは信じるよ。
だけど何で急に出てきたんだ」
「私がサリュの守護についたのはついこの前です。
姿を見せることはあまりいいとはされていませんが
最初のご挨拶はと思いまして」
「、、、べつに、いいよ」
小さく聞こえた言葉に、緑色の瞳がサリュを見つめる。
「1人のときなら、出てきてもいいよ」
「ありがとう」
「名前くらいあるんだろう?」
「失礼しました。アイゼンと申します」
「、、、アイゼン」
「それでは、今夜はこれで。お休みなさいませ」
「お休み」
軽い会釈をしたアイゼンの姿が煙のように消えた。
「、、夢じゃないよな」
こういう場合の守護というのは、大抵は自分の先祖じゃないかと思う。
守護霊の存在はあってもおかしくないとは思うが、わざわざ挨拶にくるなど聞いたことがない。
姿が消えたとしても、どこからか見ているのだろうか。サリュは部屋を見渡した。
ふと感じた懐かしさを思い出しながら。