賢者の贈り物(U)

「どうぞ」

事務所へ入るなり、ガレリアは足を止めた。

散らかっていると聞いてはいたものの、それはガレリアの想像をはるかに超えていたのだ。

「前にいた子が辞めてからほとんど手付かずなんですよ。片付けるの苦手なので」

「えと、、何からすれば」

「本は本、書類は書類というように同じものをまとめてもらえますか。
 それから順番にしまっていきます。今日は臨時休業ですね」

扉の札を架け替え、2人の格闘が始まった。


「お疲れ様」

渡されたカップからいい香りがたっていた。若干甘くたてられたお茶が動いたあとの身体を回る。

「部屋は二階を使ってください。
 休みの日は自由で構いませんけど、一人では出ないでくださいね」

「うん、わかった」

一ヶ月。終わってみれば早いのかもしれないが、その日が待ち遠しくてしかたのないガレリアだった。


そして一ヶ月後。

「お帰りなさい」

一仕事終え法廷から戻ってきたルディにガレリアはお茶を入れる。

この一ヶ月でずいぶんと慣れたものだった。

「無事に終わりました?」

「まあ、何とか。二度とやり合いたくない相手ですけど」

「ルディさんでも苦手な相手がいるんだ」

「いますよ。今回の検事は昔からの腐れ縁でね。
 何度もやり合ってお互いのやり方もわかってます。
 だからこそやりたくないんですけど、思っているとあたるものですよ」

「どうぞ」

「ありがとう。これ、一ヶ月分の給料です。ご苦労様でした」

ルディが差し出したそれを、ガレリアは宝物のように握り締めた。

「何を贈るか決まりましたか」

「ううん、何をあげたら喜んでくれるだろう」

(あなたがいればそれで十分でしょうけど)

思いはしたが言葉にはしない。

「消えてしまうものより、残るほうがいいですかね」

「残るもの、、、」

だがレイスが物に執着するのを見たことがない。思い浮かぶ物がなかった。

「服でも仕立てますか?」

「服、、、あ」

そう言われ、アントワネットを思い出す。

「行ってみますか」

「うん」


「あら、いらっしゃい」

入ってきた2人に多少驚きながらも、懐かしそうな顔で出迎えた。

「こんにちは。お久しぶりです」

会釈を返し、ルディはガレリアを前に出した。

「ほら。自分で言いなさい」

「こんにちは。あの、お願いがあって」

「あたしに?」

「はい。レイスの服を作ってほしいんです」

どこか遠慮がちだった。

アントワネットの想いを知っているから残酷な頼みかもしれないと思う。

そしてアントワネットもガレリアの心に気づいている。優しすぎるのだと。

「ガレリア、一ついい」

「はい」

「レイスのことであたしに遠慮なんかしてほしくないわ。
 それでレイスの気持ちが変わるわけじゃないし
 そっちのほうがよっぽど残酷なことよ」

「、、、、、」

「レイスは誰にも渡さないくらいのこと言ってごらんなさい。
 隣にいるのがあなたでも、レイスが笑っていられるのなら、いいわ」

「ありがとう、、大切にします。レイスのためなら何だって」

「、、お願いね」

そしてアントワネットは店の女主人に戻る。

「レイスの服か。本人は何て言ってるの」

「レイスには内緒なんです。一ヶ月分のお給料で足りればいいんだけど」

「お給料って、まさか」

「私の事務所を手伝ってもらったんですよ」

アントワネットの心配を察してルディが入った。

「自分で働いたお金で贈り物をしたいというので。
 それで、こちらに戻っているんです」

「そう、、誕生日か。わかったわ。何着せたい?」

「いつも着てるのは黒だけど」

「布選びから始めましょうか。奥に来てくれる」

「はい」

奥に足を向けたアントワネットがルディを振り返った。

「あなたも入る?」

「私?いえ、遠慮しておきます。後で迎えに来ますからよろしく」

言葉ではなく微笑みを返し、2人の姿は奥へ消えた。



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