賢者の贈り物(T)

「働きたい?」

ルディはガレリアをまじまじと見返した。

たまに様子を見にくるルディを捕まえるなり、ガレリアは告げたのだ。働きたいと。

「僕に出来ることのほうが少ないと思うけど、何かありませんか」

「どうして私なんです。レイスは承知してるんですか」

「レイスには、、言ってない」

(また面倒なことを)

心の中で大きなため息をつく。

「レイスに黙ってそんなことをさせたら、私の命がいくつあっても足りませんよ。
 一体何がしたいんです」

「自分で働いたお金で、レイスに贈り物をしたいんです。
 レイスの他に何かを相談出来るのルディさんしかいないから」

そう言われ、レイスの誕生日が近いことに気づいた。

本人は忘れているかもしれないが。

「そういうことですか、、、正直難問ですけど」

男娼として送り出すなら、貴族階級と渡り合えるだけの知識と教養を教え込む。

だがガレリアにはそれがない。

ガレリア自身にも自覚はあるようで、黙ったまま次の言葉を待った。

(いい機会かもしれませんね)

この際、世間一般常識を教え込むにはいい機会だとルディは考えた。

ならば下手な相手に預けるよりも、手元に置いたほうが安全かもしれない。

「では、私の事務所の手伝いでどうです」

「ルディさんの?何をすればいいんですか」

「事務所の整理をしてくれれば十分ですよ。手が空いたときは好きなことをして構いませんから。
 それに、見ず知らずの相手にあなたを預けるなんて、レイスが承知するとも思えませんし」

「うん、、ルディさんの所ならそれがいい」

「さて、、どう言いましょうか」


そして早速。

「レイス、ガレリアを少し借りたいのですけれど」

「馬鹿も休み休み言え」

即答だった。

「いきなりそう来なくてもいいでしょう」

「ことによっては、お前でも容赦はしないぞ」

すごみのある物言いをさらりと流し、ルディは話を続ける。

「事務所を手伝ってもらいたいだけですよ。次の子が見つかるまで。
 見つからなくても一ヶ月で帰します」

「、、、、、」

「そんなに信用ありませんかねぇ。それに一般常識を教え込むにはいい機会だと思いますよ。
 あなただって、ガレリアがこのままでいとは思ってないでしょう」

図星だった。世の中を知らずにこのまま繋ぎとめておくわけにもいかない。

ならば知っている相手のほうがましだろう。

「何かあったときの覚悟はあるんだろうな」

「ええ。私だって命は惜しいです」

「わかった。ガレリア来い」

物影で様子を伺っていたガレリアが2人の前に出る。

「何かあったら知らせろよ」

「大丈夫だよ。ルディさん、いい人だもん」

ためらうことなく言い切られ、ルディのほうが苦笑いをもらす。

「もう少し、他人を警戒したほうがいいですよ」

「でも、本当のことでしょう」

「こいつを信用しすぎるな」

ガレリアは2人を交互に見比べる。

「2人って、、、仲がいいの?悪いの?」

「さて、、ね」

いたずらっぽくルディは笑い、レイスは黙ったままだった。

真剣に考え始めたガレリアを見ながら、ルディは笑いをかみ殺す。

「支度始めてください。出られるようになるまでいますから」

「行くぞ」

「あ、待って。すぐやります」

ぱたぱたとレイスを追いかけ部屋をでていった。

「唯一絶対のもの、、か」

おそらく自分には縁のないもの。けれどどこかで、あの2人を羨ましいと思っていた。


どことなく楽しそうなガレリアに、レイスは少なからず苛立ちを覚える。

「よいしょっと」

トランクを抱えた腕を手元に引いた。そして口付ける。

「ん、、、ふぁ、、、」

ようやく離された。こくりと首をかしげ、ガレリアはレイスを見る。

「急がなくてもいいだろう。発つのは明日にしろ」

「でも、、」

「何を浮かれている。ここを出たいのか」

「違う。そうじゃないよ」

「じゃあ何だ」

レイスへの贈り物が嬉しいだけだが、本人に言えるはずもない。

「、、、すまない」

不意に謝られ、下を向いていたガレリアは顔を上げた。

「お前がやりたいことを止める権利なんてなかったな。
 でも、帰ってくるんだろう」

「帰ってくるよ。レイスの隣が僕のいる場所だもの。
 待ってて。きっと驚かせるからね」

「、、、楽しみにしてるよ」


翌朝、ガレリアを送り出した屋敷にはレイス一人の足音だけが響く。

足はガレリアの部屋へと向かっていた。信じていないわけではないけれど、どこかに残る不安。

この思いを自分がガレリアにさせていたことに、今更ながら気づかされる。

「私は、、お前を苦しめてばかりか、、」

ガレリアが聞けば、違うと言い返してくるかもしれない。その声がひどく懐かしく思えていた。



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