月の涙

「あれ、、、」
「どうしました」
「シャルミラ、誰か来るよ」
「、、、、」
この塔の周りには目くらましの結界が張ってある。
塔を目指して森に入ったところで、町の人間がたどり着けるはずはなかった。
そうなると、思いつく相手は1人しかいない。シャルミラは外を見た。
「ランス、、、?」
見えたのは町で写真屋を営んでいるランス。自分たちの翼を知る数少ない相手だ。
だが、ランスのほうから出向くなど初めてだった。2人に気づいたランスも窓を見上げる。
「キュリオ、下りましょう」
「うん、、、」
気持ちを引き締めて、ランスを迎えた。
「あなたのほうからここへ来るのは久しぶりですね。何かありましたか」
「風響さまからの頼まれ事です」
その名前に小さくキュリオが跳ねた。シャルミラがそっと抱き寄せる。
「聞く必要はありませんよ。そう伝えてください。キュリオ、何もないから」
「そうくるだろうと思ったから、僕を仲介に立てたんですよ。
恨まれるのはわかってる。それでも、2人を無視するわけにはいかない。
だから、どうしても話をとおしてほしいと」
「、、、、、」
風響が何をしたいのか、まるで見当がつかない。
「話だけでも聞いてもらえませんか。風響さまも大分丸くなりましたから。
それに、今回ばかりは少し手伝ってあげたいので」
「、、、何をしたいのか、ランスは知っているんですか?
これ以上キュリオを傷つけるようなことはさせたくない」
「その逆かもしれませんよ」
「ランス?」
ルディが内に持つ片翼を奪うだけなら、風響だけで事足りる。
シャルミラとランスにも来いというのであれば
翼をキュリオに戻すつもりなのかもしれない。
「風響さまから人捜しを頼まれてましてね。
その相手が見つかったんです(本当は大分前だけれど)」
「それが私たちと何の関係が」
「捜した相手、キュリオさまと同じ色の瞳をしています」
黙っていたキュリオがランスを見た。
「僕と、、、同じ?」
「ええ。風響さまが何をしたのかは聞いてませんけど」
「その人、僕の翼持ってるの?だから」
「まさか、、素直に翼を返すなんてありえない。裏があるに決まっている。
キュリオ、忘れたほうがあなたのためです」
「でも、、僕が双翼になればシャルミラと帰れる」
「帰るなど望んでいない」
「シャルミラ、、、」
「以前の風響さまなら、僕もシャルミラ様と同じ事を考えました。
でも今の風響さまなら、話を聞いてみてもいいと思いますよ」
「、、、風響に何があったんですか」
「それを知りたいのなら、会ってください」
「相変わらず、、、話の持っていき方が上手いこと。わかりました。会うだけあってみましょう」
「ありがとうございます。僕の店で待ってもらってますから連れてきますね」
「今?すぐになんですか?」
「ええ、すみませんが。事情は、、とりあえず後で」
言うだけ言うと、軽い会釈で部屋を後にした。
「シャルミラ、、、」
「風響は、、、何を考えているんだ」
少なくとも、シャルミラの記憶にある風響なら、何の思惑なしで翼を返すとは信じられない。
だが、ランスの言葉にある”今の風響”とはどういう意味なのだろうか。
「、、、とりあえず、聞いてみてからですね。キュリオ?」
キュリオはシャルミラにしがみついていた。
そう、、、不安なのは、わけがわからないのはキュリオのほう。シャルミラは優しく抱き返した。