邂逅(V)

オルガを運び入れ、ルディが応急処置をしている間に医者を呼んだ。

慌しく時間がすぎて、落ち着く頃には夜も遅くなっていた。

オルガの傍を離れないフィータはひとまず部屋に残し、3人が顔をあわせる。

「怪我をしたオルガを拾ったって言ったな」

「歩いていたら悲鳴が聞こえて、後ろを見たらあの状態で歩いていました。
 何があったのかまではわかりせん」

「約束したから帰るって、ずっと言ってた」

「とにかく、助かったよ」

アリエルはお茶を入れなおす。

「これを頂いたら出ましょうか、愁馬。
 これ以上遅くなると宿のほうが危なくなるし」

「旅の途中か?」

「ソレアへ向かう途中です」

ルディの答えを聞くと、アリエルは宿の住所を書き出した。

「よければ使ってくれ。私が経営している宿だ。
 出るのは昼くらいで間に合うか?」

レイスたちと時間の約束はないから、それはこちらの一存でかまわないだろう。

「はい」

「それなら、宿代はいらない。話はつけておく」

「しかし、そんなつもりでは」

「オルガにはいてもらわないと困る。安いものだよ」

ここでのオルガがどういう立場だかは解らないが
オルガが帰りたいと望む場所であることは救いだった。

アリエルも悪い相手ではなさそうだ。

「お言葉に甘えさせてもらいます。行きましょう」

メモ書きを受け取り席を立ったときだった。

「駄目だよ、オルガ」

「いいから、放せ」

フィータを振り切り、オルガが部屋へ入ってきた。

「、、、やっぱり、あんたか」

オルガに見えているのはルディだけだった。

この瞳を忘れるはずがない。

「他人の空似なんて言わないよな」

「、、、、久しぶりですね」

ルディとオルガの間にわずかな緊張感が生まれる。

だが気がつかないフィータが割って入った。

「オルガ、動いちゃだめだってば。お医者様だってそう言ったよ。ね」

「少しだけだ」

「やだ。またいなくなったりしたら」

「いなくならないさ」

「ほんと」

「ああ」

「先に座れ」

オルガを座らせたアリエルは、フィータを来るように促す。

ルディも座りなおし、オルガと向き合った。

「聞きたいことがあるだけだ。
 あんたの親父さんが持ってた鳥籠、どうなった」

「、、、父はもういません。レイスを覚えていますか」

「、、、覚えてる」

「鳥籠はレイスが受け継いだけれど、それを壊して皆逃がしました」

「あいつが壊した?」

「はい」

あの男娼館のレイスの前の主。それはルディの父。

レイスもまた、あの鳥籠の鳥だった。

そしてオルガも同じ頃に館にいた鳥。

だがオルガのほうは早く引き取り手が決まった為、そう長くいたわけではない。

「そうか、、、自由になったか」

僅かにオルガが微笑んだ。

「オルガ、私からもひとつだけ聞かせてください」

「ん?」

「あなたは望んでここにいるのですよね」

「ああ、俺がいたくてここにいるんだ」

「安心しました」

「何か、印象変わったな」

「私がですか」

「昔は、、俺が知ってるころは今みたいに表情なかったろう」

「、、、それなりに時間も過ぎましたから。あまり長引かせても響くでしょう。
 行きましょうか、愁馬」

「失礼します」

席を立ったルディに愁馬も続く。

2人も見送りながら、ルディの子供なのかとふと考えた。

「オルガ、戻ろう」

待ちかねたフィータがオルガの袖を引っ張る。

「戻るから、何か飲むもの頼むよ」

「じゃあ、はい」

フィータが差し出したのはフレデリック。

ひとまずは受け取ったものの、どういうつもりで渡してきたのかわからない。

「フレデリックがどうかしたか」

「フレデリックが一緒に行ってくれるって。すぐ行くから動かないでね」

にこりと笑うフィータが、どこまでも澄んだ水のように思えた。

時は人を変えていくけれど、フィータは変わらない気がする。

それがフィータにとっていいことなのか、悪いことなのかはわからないけれど。

「戻ろうかフレデリック。よろしくな」

オルガの一言にアリエルの肩が震えた。

そんなアリエルを横目で見ながら、フレデリックを抱えてオルガは部屋へと引き上げた。

「アリエル、どうして笑ってるの?」

「何でもないよ。早く行ってやれ」

「うん」

誰が何を言ってこようが、フィータがここにいたいというのならそれを叶えてやるだけ。

単純にそれでいいのだということに気づかされたような、アリエルはそんな気持ちになっていた。



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