


邂逅(W)
宿に入ったルディと愁馬にも、ようやく一日の終わりが訪れようとしていた。
「疲れたでしょう」
「僕は大丈夫。、、、ルディさんのお父さんも亡くなったの?」
「あれから、どれくらいになるんでしょうかね、、、」
自分のことなど省みずに、集まった鳥たちを愛した父。
その中でも、レイスはお気に入りの鳥だった。
父が死んだとき、悲しいとも憎いとも、何も感じなかったのだ。
「先に休んでいてください」
「ルディさんも休んだほうがいいよ」
「すぐ終わらせます。ありがとう」
言い方は丁寧だが、その裏にはこれ以上口をださないでくれと言いたいのだろう。
それを感じ取った以上、愁馬には何も言えなかった。
「じゃあ、、先に。お休みなさい」
「お休み」
繋がっているベッドルームへと入る愁馬を見送り、ボトルの栓を抜いた。
「ガレリアと愁馬を会わせるだけのはずなのに、昔の鳥に会うなんてね」
瑞樹の店ですれ違った由衣。そして今日のオルガ。
あの鳥籠を出た鳥がどうなったかなど、知ることはないと思っていた。
だが、、、何も知らずにいることは許されないのだろうか。
何も知らずに、アントワネットの隣にいることは。
「ん、、ごほっ、、はぁ、、」
グラスを一息で空にして、ソファーに身体を投げる。
「私のこと、どう思っていたんですか。、、、父さん」
答えが返るはずのない、だが離れない問いかけ。ルディはゆっくりと瞳を閉じた。
「壊したのか、、、けど」
あの鳥籠を出たところで、どこへ行こうとついてくるのかもしれない。男娼だったという過去は。
「話しちまったほうがいいのかな」
他の誰かから口汚い言葉で伝わる前に、自分から話したほうがいいだろうか。
そして、、結果出て行けと言われたら
きっとそうだろうが、元の暮らしに戻るしかない。
「なあ、、どう思う」
フレデリックが答えるはずもなく、オルガは天井を見上げた。
そこへ、フィータがグラスを持って部屋に入った。
オルガに渡すとベットの脇にぺたりと座る。
「ありがとう。、、、これ酒か?」
受け取ったグラスからは確かにアルコールが香る。
「オルガがいつも飲んでるものがいいかなって」
(そんなに酒飲みか?)
自覚はないが、フィータは単純にそう感じているのだろう。ゆっくりと空けた。
「ねえ、オルガ」
「ん、、、?」
「帰りたい?」
「何処へ」
「僕たちと会う前に居た場所」
「フィータ、、、」
フィータの瞳が覗き込んだ。
「俺はここにいたい。アリエルとフィータとフレデリックと、みんなで」
「みんな一緒」
「そうだよ」
「オルガ」
「何だ」
フィータが顔を近づけてくる。そして、一瞬だけ唇が重なった。
「フィータ、、、、」
その笑顔は、いつものあどけない幼子のものではなく
全てを包み込むあたたかい笑顔。
教会に飾られる慈愛に満ちた聖母のような。
「お休みなさい」
「、、、、、お休み」
呆気にとられたまま、部屋を出るフィータを見ていた。
「は、、、まいったな、、あんな顔、、、」
フィータは変わりようがないのだと、自分たちが思いこんでいるだけなのかもしれない。
時の流れが人を変えていくならば、それは誰にでも平等に訪れるものなのだろうか。
だから今を大切にしたい。
穏やかな水面のように凪いだ心で、オルガは眠りに落ちていった。