



邂逅(U)
数日後。再び客がやってきた。扉を開けたのはオルガ。
「あんた、、、」
「久しぶりだね。少しいいかい」
「誰?」
ひょいとフィータが顔を覗かせる。
「昔の知り合いだ。フィータ、すぐ戻るから」
「オルガ?」
「いい子で留守番しててくれ。鍵は掛けとけよ」
「、、、うん」
感じたことのない雰囲気に小さく答える。
オルガは来た客を連れて夜の町へと出て行った。
「、、、帰ってくるよね」
いいようのない不安を覚え、残されたフィータはフレデリックを抱きしめた。
オルガたちは裏手の人気の少ない脇道へと入った。
「何の用だ。あんたとの契約はとっくに終わってるはずだ」
昔、この町に来る前に自分を買った男。一定期間の契約のうえで抱かれた相手。
「変わっていないな。
身体は預けても心までは売らないと、見返した瞳そのままに」
「昔話に付き合うつもりもない」
「そう慌てるな」
伸びてきた手を払う。男は満足そうに微笑んだ。
「もう一度お前を買いたい。代価は倍払う」
男が差し出した袋はずっしりと重たそうだった。
だが、無論今のオルガには必要ない。
「そっちの商売は廃業したんでな。他をあたってくれ」
「お間を忘れられないのだよ。どうしても駄目か?」
「断る」
オルガは背を向けた。同時に男はオルガの腕を引き抱きしめる。そして、、、
「ぐ、、、あ、、」
「渡さんよ。誰にも」
わき腹に感じた鈍い痛み。
「は、、はなせっ」
出せる力全てで男を突き放す。
「フィータ、、、帰らなきゃな、、約束、、」
身体を引きずるように足を前に出す。男は追ってこようとはしなかった。
「ここがサルバスなんだ。賑やかな町だね」
「人と物が行き交う十字路のような町だから。いつもこんな感じですよ」
愁馬とルディがサルバスに着いたのは日が暮れかかった夕刻。
宿屋の立ち並ぶ通りを歩いていた2人背後で、突然悲鳴が響いた。
足を止めて振り返ってみれば、建物の壁を伝いふらつきながら歩いている男。
悲鳴の訳はすぐにわかった。わき腹が朱に染まっている。
「あの人、怪我してるんだ」
愁馬が駆け出し、ルディも後に続いた。
「動かないで。今車を拾ってきますから」
支えたルディを見上げた瞳。その面影に覚えがあった。
「まさか、、、オルガ?」
「ルディさん、知ってる人?」
オルガのほうも、忘れられない瞳を思い出す。
「、、、嘘、、だろ、、う、、」
オルガの膝が折れた。
「しっかり。ルディさん、ここにいるから他にも誰か」
「動かないでくださいね。すぐ戻ります」
ルディを待つ間、自分の倍はあるオルガを懸命に抱きかかえる。
「、、、帰らなきゃ、、約束、、」
「聞こえてる?僕、愁馬。どこに帰ればいいの?」
唇は動くが聞き取ることはできなかった。
だが、取り囲んでいた野次馬の一人が宿屋の同居人だと告げた。そう遠くない。
「よかった、、。ありがとう」
笑顔で愁馬が返したところで、車を拾ったルディが戻った。
「住んでる場所わかったよ。そう遠くないって」
「急ぎましょう」
オルガを乗せて、傷に響かないよう慎重に走り出した。
「オルガ、、、帰ってこないの?」
客と一緒に出て行ってからかなりの時間がたった。
何度となく時計を見返し、外からの音に耳を立てるがオルガは帰ってこない。
「帰ってくるよね、、、約束した」
扉の開く音がした。飛び出したフィータの前に立ったのはアリエル。
「ただいま」
「アリエル、、、」
「どうした」
アリエルを迎えたフィータは泣きそうな顔をしていた。
「オルガが帰ってこないんだ」
「出かけたのか」
「お客様が来て、一緒に出て行った。昔の知り合いだって。
すぐに帰ってくるって言ったのに、、、、。帰ってくるよね。
約束したんだ。ここに帰ってくるって」
会う前のことは何一つ知らないのだから、相手の見当はつかない。
だが、もしここを出ることになっても黙ったまま行くことはしないだろう。
今はフィータを安心させるほうが先だ。
「懐かしい相手だから話し込んでいるのかもしれないな。帰ってくるよ。
フィータを促して入ろうとしたとき、家の前に車が止まった。
降りてきた知らない相手が2人に歩み寄る。
「こちら、オルガの家で間違いないですか」
「そうだが、、フィータ、客っていうのはこの人か?」
「さっきとは違う」
「ルディといいます。通りで怪我をしたオルガを拾いました。
運び入れるの手伝ってください」
「怪我だって?」
「ええ。近くに医者がいればそちらにも連絡をお願いします。急いで」
「アリエル、どうしたの?オルガ、帰ってきたの?」
訊き返したフィータに、ルディの不思議そうな視線が返った。
だがそれを説明している余裕もない。
「フィータ、よく聞いてくれ。帰ってきたけど怪我をしているんだ」
「、、、うん」
「オルガの部屋に行って、着替えるもの出しておいてくれないか。
何でもいいから探してベットに置いてきてくれ」
少し間はあったものの、頷きオルガの部屋に向かった。
「何処にいる」
「車の中に。私の連れが見ています」