邂逅(T)

招かれざる客。そんな相手はどこにでもいるもの。

ある日、そんな客がサルバスに住むアリエルの家にやってきた。


「あれ。お客様かな」

扉を叩いた音に先に気がついたのはフィータだった。

「フレデリック、待っててね」

抱えていたフレデリックをソファーに座らせ、玄関へ出る。

「はい」

「こんにちは。アリエルは相変わらずなのね」

「、、、、、」

フィータを見た客からは、あからさまなため息が落ちる。

初めての相手ではなかった。

だが、いつもアリエルとだけ話をして帰っていくため
どんな用事で来ているのか知らない。

「また、あなたですか」

顔を出したアリエルも、うんざりといった感じで声をかける。

「アリエル、、ねぇ」

アリエルに何かを言おうとするが
そんなフィータのことなどお構いなしに話を切り出した。

「あなたたちの為を思うからなのよ。
 この子にとってもアリエルにとっても一番いい選択肢でしょう」

「そのつもりはありません」

「頑固なんだから。結局は赤の他人なのに、どうしてそこまで」

「フィータは私の弟だ」

「確かに、あなたを孤児院から引き取って育ててくれたのは
 フィータのご両親に間違いないけれど、十分義理は果たしたでしょう。それに、、」

ちらりと横目でフィータを見た。

「あなたがそのつもりでも、この子がわかっているのかどうか」

「何の話なの?」

「フィータ、中に入ってろ」

「でも、、、」

「いいから」

アリエルの語気が荒くなる。何も訊けずに、フィータは引き返した。


「どうした?アリエルに客か」

リビングにはオルガも姿を見せていた。

だがフィータは、オルガには気がついていない様子でソファーに座りフレデリックを抱える。

「フィータ?」

「僕のせい、、、僕のせいでアリエルがけんかしてる。僕がいなければいいの?
 フレデリック、一緒に行こうか。どこか遠くへ」

「フィータ、待て」

「オルガ、、、」

隣に座り、フレデリックごと抱き寄せた。

客が誰なのか察しがついた。

フィータをそれなりの施設に預けたほうがいいと
何度となくその話を持ちかけてくる相手だ。

オルガのこともよくは思っていない。

何処の誰とも、何一つ素性を明かさない相手など信用ならないと。

「(俺が男娼上がりなんてわかったら、速攻追い出しにかかるだろうな)
 アリエルも俺も、フィータと一緒にいたいと思ってる。居ていいんだよ」

「アリエルはどうしてけんかしてるの?あの人誰?
 オルガはどうして僕たちと一緒にいてくれるの?何処から来たの?」

「それは、、、」

始めから全てを説明したところで、フィータが納得するだろうか。

どこまで理解できるかさえ、定かではない。

「どうして黙ってるの?僕が悪い子なの?
 アリエルもオルガも僕のこと嫌いになったの?
 だから教えてくれないの?ねぇ、オルガ!うぇ、、、ひっく、、」

今までぶつけたくても押し殺してきた疑問なのかもしれない。

少しでも話したほうが、そのほうがフィータを楽にできるなら、、、。

「フィータ、少しだけど話せることは話すよ」

「、、、ほんと」

「ああ。だけど俺もオルガも、フィータのためだと思って黙ってた。
 それは信じてくれ」

「、、、うん」

「俺はここに来る前はキエヌっていう町にいたんだ。
 サルバスに移って先のことを考えてたとき、同居人を探してるって広告があった。
 それを出していたのがアリエルなんだよ」

「アリエルが?どうして?」

「宿屋を引き継いだもののそっちが忙しくなって
 フィータにかまってやれなくなった。
 1人で留守番をさせておくのは無理だから
 一緒にいてくれる相手を探してるって、そう言ってた」

「、、、お留守番くらいなら、、」

自分は、アリエルにとってやっかいな荷物なのだろうか。ふと浮かんだ疑問。

「フィータ、俺がいなくても大丈夫なら出て行くよ」

「え?」

思いもしない言葉に、うつむいていたフィータの顔が上がる。と同時にアリエルが戻った。

オルガの飲んでいた酒をグラスに移し、いっきに空ける。

「フィータ、さっきは悪かった」

フレデリックを抱きしめたままのフィータから、返事はない。

「フィータ、アリエルはいつだっておまえのことを考えてるよ」

聞いたことのない一言に、アリエルの視線もオルガに向く。

「フィータにとって何がいいことなのか、それを一番大切にしてる。
 なんとなく、羨ましくてさそういうの。そんな相手、近くにはいなかったから」

「、、、誰もいなかったの?フレデリックみたいな友達も?」

「いなかったな、、、誰も」

ここで暮らし始める前のことを思い出していた。

籠の鳥として育てられた過去。一日が終わるのをただ待っていた、そんな日々。

「だから、ここでアリエルやフィータと暮らし始めて楽しかった。
 誰かと一緒に居てそう思えたのは初めてかもしれない」

「じゃあ、僕がなる」

いつの間にか泣き止んだフィータがにこりと笑った。

「アリエルが僕こと考えてくれるなら、僕がオルガのこと考える。
 それで、オルガがアリエルのこと考えればみんなのこと考えられるよ」

「フレデリックは」

「みんなで。ね、アリエル」

「、、、そうだな。皆で」

救われているのだと思う。フィータに。

自分を必要としてくれている誰かの存在は、一番大きな安心だから。

「オルガ、いなくならないよね?さっき出て行くって言ったの嘘だよね」

「そんなこと言ったのか」

「、、、成り行きだけどな。帰ってくるよ。ここに」

「ほんと?」

「ああ、約束」

「うん。約束」

この約束だけは何があっても守りたい。

向けられるフィータの笑顔に、そう強く思うオルガだった。



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