回顧録

悠夜、珂晶の昔話です。
テキストのみで写真はありません。


               「悠夜、、、、遅いな」

               いつもどおり仕事にでかけた悠夜が、いつもの時間に帰ってこない。

               捜しに出たくても、街中には自分を捜している誰かがいる。結局、待つことしか出来なかった。

               夜になり、物音ひとつたてずに珂晶は待った。と、扉をたたく音がした。

               待っていた分、気がせいていたのだろう。確かめずに扉を開けた。いたのはシェスタ。

               そして、足元に落ちていた紙を拾う。

               「何やら様子を窺っている影がありましたよ。これを落としていったのでしょうね。入れてください」

               鍵を下ろし、シェスタを中に入れた。紙を広げたシェスタは大きなため息を落とす。

               「あの、、、何が書いてるんですか」

               「悠夜を預かっている。あなた一人で来いと」

               「な!?」

               紙の文面を慌てて追った。

               「こんなこと、、、、だから出て行くって言ったのに」

               昨日出て行けばよかったのだ。優しさに甘えた自分が許せなかった。

               「行ってきます。悠夜を助けなきゃ」

               「一人で乗り込むつもりですか」

               「狙いは私でしょう。だったら」

               「でも、理由はわかっていない」

               「、、、、、」

               「それに、悠夜を素直に返すとは限りませんよ。
                あなたを狙う理由がなんであれ、悠夜を誘拐したことにかわりはないのだから」

               「では、、、どうしろと」

               「あと半日だけ待ってください」

               「その間に何かあったら」

               「私だって悠夜を助けたい。そのために必要なことなんです」

               シェスタが何を考えているのかわからない。だが、悠夜を助けられる確率が高いのなら、それに賭けたかった。

               「、、、、わかりました。信じます」

               「ありがとう」


               半日後、約束どおりシェスタはやってきた。

               「お待たせしました。行きましょうか」

               「はい」

               指定された場所に向かいながら、シェスタは話を始めた。

               「この町の治安警備を預かる部隊に連絡をしてあります」

               「え?」

               「そこに知った相手がいるのでね。誘拐事件なのだから、協力してもらって当然でしょう」

               「それは、、、そうですけど」

               「おそらく、あなたに一人で入ってもらうことになります。悠夜が誘拐犯の手を離れたところで突入でしょうね。
                その隙に、あなたは一度はなれて隠れてください。いいというまで姿は見せないで」

               「何を、、、、どうするんですか」

               「まあ、、、考えている通りにやらせてください」

               シェスタの考えがさっぱり読めない。わからないことだらけだが、今は信じるしかなかった。

               「見えてきましたね」

               場所は無人の一軒家。シェスタのいったとおり、数人の姿があった。その中の一人がシェスタに気づく。

               「遅かったな」

               「すみませんでした。珂晶、彼はケイオス」

               「初めまして。珂晶です」

               「珂晶、、、おい、シェスタ」

               「説明はしますから、先に誘拐犯を捕まえてください」

               立場上、ケイオスの耳にも珂晶の名前は伝わっている。町でその名前を捜し回っている男がいると。

               「お前の友人が誘拐されたっていうのは、どこまで本当なんだ」

               「間違っていません。悠夜は友人です。同時に珂晶の恩人でもある」

               「あの、私はどうなってもかまいません。悠夜を助けてください。お願いします」

               「、、、、説明しろよ」

               どこで何が繋がっているのか見当のつかないケイオスだったが、先に悠夜の救出に動き出した。

               「先に入ってもらうことになるな。悠夜が犯人の手を離れたら合図をくれ」

               「合図は何を」

               「こいつを壁にぶつけてくれればいい」

               渡されたのは小さな爆弾。といっても、煙と閃光で殺傷能力は無しに等しいものだ。

               「間違っても人に投げるなよ」

               「わかりました」

               それを手にして、中に入った。


               「悠夜!どこです!」

               「来たか」

               物陰から一人の男が出てきた。その銃口が向けられた先に、轡をされた悠夜がいた。

               「私が目的なのでしょう。悠夜を返して」

               「よくまあ、、、こんな所まで逃げてきたな」

               「誰なんです、、、どうして私を、づぅ、、う、、、」

               撃ち抜かれたのは珂晶。

               「お前相手にこいつは効かないだろうが、そのぶん時間をかけてやるさ」

               「、、、悠夜、、あなただけは、、」

               ケイオスから預かったものを壁に投げた。とたん、爆煙と閃光が辺りを包む。

               それを合図にケイオスの部隊がなだれこんだ。珂晶は悠夜に駆け寄り、轡を解いた。

               「悠夜、怪我は」

               「それは珂晶のほうでしょう」

               「よかった、、、!?」

               腕を引かれた。

               「珂晶、隠れてと言ったでしょう」

               「シェスタ、、、あなたまで」

               より驚いたのは悠夜。シェスタがいるなど想定外だった。

               「悠夜は助けますから、急いで」

               「、、、悠夜をお願いします」

               「珂晶!」

               人に紛れ、珂晶は屋敷を抜けた。


               なだれこんだ部隊が誘拐犯を抑えるまで、時間はかからなかった。

               部隊を先に帰し、悠夜とシェスタ、ケイオスが顔をあわせる。

               「手際のよさは流石ですね、ケイオス」

               「ありがとうございました。シェスタ、珂晶は?怪我をしているんですよ」

               「約束だろう。説明してくれ」

               「珂晶、聞こえるところにいますか?」

               ゆっくりと、3人の前に進み出た。

               「腕を見せて」

               「大丈夫。それよりも、私のせいでこんなことに巻き込んでしまってごめんなさい」

               「、、、、こうして戻れたのだから、よしとしましょう」

               「ケイオス、珂晶は刻印を背負う者です」

               「何だって、、、」

               「シェスタ!?何のつもりですか!」

               「、、、、、、」

               シェスタの言葉に、3人3様の反応が返った。

               「傷だらけで行き倒れていた珂晶を、悠夜が助けたそうです。
                あの誘拐犯が珂晶を狙った理由がそれならば、遅かれ早かれ、彼らの口から伝わるでしょうからね」

               「本当なのか?」

               ケイオスが珂晶を見据えた。

               「ええ、、、本当です。私の背には刻印がある。だけど、覚えていないんです。
                誰が刻印を彫ったのか。主が誰なのか。何処から来て、何をしていたのか。
                助けられる前のことは、何一つわからない」

               「ひどい傷で、何日も熱が引かなかった。意識が戻った時にはこの状態でした」

               「一回しか訊かない。刻印を持ってるってわかってて、匿ったのか?」

               「そうです」

               「あのなあ、、、、」

               ケイオスは頭をかいた。とてつもなく面倒なことを引き受けたのかもしれない。

               「シェスタ、これを俺に知らせてどうしろっていうんだよ。今の俺の立場じゃ」

               「珂晶と悠夜を捕らえるのが仕事でしょうね」

               「捕らえるって、、、、どうして悠夜まで」

               悠夜は変わらない穏やかな笑みを向けた。答えたのはシェスタ。

               「この町は刻印を背負う者を受け入れてはいない。知ったうえで匿えば、そのほうがよっぽど重罪なんですよ。
                悠夜だって知っているはずです」

               「悠夜、、、、どうして?わかってて、どうして匿ったりしたんですか!
                お願いです、悠夜は見逃して。わたしはどんな罪になってもいい、だから」

               「珂晶、公になったときに知らなかったと嘘をつくくらいなら、初めから匿うなんてしません。
                刻印に何の意味があるんです。傷ついていたのはあなたなのに」

               「悠夜、、、、」

               「間違ったことをしたとは思っていない。
                けれど、この町のルールを破ったのは事実ですから、言い訳のつもりはありません。どうぞ」

               「ごめんなさい、、、、」

               悠夜が差し出した両手とシェスタを交互に見つめた。

               そして、シェスタが自分を引っ張り出した本当の理由が分かった気がした。

               「つまり、ここで見逃せってことなんだな。だから俺を引っ張り出したのか」

               「刻印を背負う者と、それを庇った者は捕まりそうになって逃亡。悪くないでしょう。
                3対1なのだから、あなたの恥にはなりませんよ。他が戻る前にお願いできませんか」

               悠夜と珂晶はシェスタを見つめるだけだった。

               「私だって、刻印を持つ者の運命なんで馬鹿らしいと思います。ケイオスも、そう言ってましたよね」

               「、、、、、わかったよ」

               「恩に着ますよ。そういうことだから、他が戻る前に済ませましょう」

               「シェスタ、、、、ケイオス殿、ありがとうございます。珂晶、行きましょう。
                このままサルバスを出たほうがいいかもしれない。住む場所を探さないとね」

               「でも、、本当にこんなこと」

               「せっかくここまで準備したのだから、乗ってくれませんか」

               「あ、、、、ありがとうございます。本当に、、、ありがとうございます」

               「少しくらい手加減しろ」

               そういってケイオスは背中を向けた。

               「ケイオス、ありがとう。最後の最後まで、こんなのですみません」


               「シェスタのやつ、、、手加減なしで殴ったな、、、」

               「た、、、隊長!」

               隊の一人が駆け戻ってきた。そこにいたのは殴り倒れたケイオス一人。

               「しっかりしてください!やはりあれは」

               「大丈夫。どうした」

               「先ほど捕らえた者が、あの中にいた珂晶というのは刻印を背負い主を殺して逃亡中だと」

               「(そういうことか、、、)、、、、そうか」

               「追撃をかけます」

               「ああ、、、、わかった」

               さすがに追撃命令を止めることは出来ない。それが、今の自分の立場だ。

               主を死なせて逃亡となれば、刻印を背負う者にとっては、なによりも重い罪。

               だが、主の中にはその刻印を人とも思わず、ただの道具としてしか見ない者もいるという。

               珂晶の主がそんな相手で逃げてきたのなら、逃げ切ってほしかった。

               もっとも、今の珂晶には主の記憶も何一つ残っていないのだろう。

               (何処に行くつもりかな)

               その先が落ち着ける場所であることを願うだけだった。


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