回顧録U

焔珠と乃亜の昔話です。
テキストのみで写真はありません。


             翌日。見舞いの花と乃亜からの差し入れをもって、焔珠は由利亜のいる病院へとやって来た。

             名前を探しながら暫く歩き、目的の部屋をみつけた。小さく扉を叩き、中へと入る。

             いたのは、華奢な乃亜とそう変わらない年頃の少女。大きく眼を見開き、焔珠を見たまま動くことも声を出すことも出来ない。

             ベットに座った焔珠は由利亜の瞳をのぞく。

             「君が由利亜?」

             「はい、、あの」

             「いつも百合の花を届けてくれる。昨日はカードもあったね。ありがとう」

             「夢を、、、みてるの?」

             「夢じゃないよ。触れてごらん」

             由利亜の手がためらいがちに伸びる。焔珠はそっと自分の手を重ねた。

             「どうして、、ここが?」

             「私は魔法使いだから」

             クスリと笑う焔珠。一方由利亜は涙が止まらなかった。

             「本当に会えるなんて、、、思ってなかった。ありがとうございます」

             「私こそ、、、ずっとあの劇場に来てくれていたんだね。ありがとう。、、、、これは何を書いているんだい」

             「え、、、あ、駄目」

             ベットの上のテーブルに乗っている紙の束に覆いかぶさるも、その勢いで飛んだ一枚を焔珠が掴む。

             「、、脚本?」

             「あの、、」

             由利亜は頬を染めたまま動けずにいた。

             「由利亜が自分で作ってるのか?」

             「そう、、です。こんな焔珠さん、、観てみたいなって、、ごめんなさい。あたしが勝手に想像してるだけだから」

             「見せてもらってもいいかな」

             「でも、下手ですよ」

             「いいよ」

             諦めがついたのか、顔を上げた由利亜は手元で束ねると焔珠に差し出した。

             それを真剣に追っていく焔珠を、試験の結果をまつような気持ちで待っていた。

             「最後の結末は?」

             「まだ決まってません。迷ってて」

             「そうか、、ありがとう」

             由利亜の手元に返す。

             「その続き、私に書かせてくれないかな」

             「え、、、、、、」

             「書き上げて、次の公演でそれを使わせてほしい」

             「だ、、だめです。本当に使えるようなものじゃ」

             「まあ、少し手を入れさせてもらうけど、由利亜にはちゃんと許可をとるよ」

             「駄目です、、絶対に駄目!」

             「由利亜?」

             胸を押さえ、小さく震えだした由利亜をそっと包む。

             「間に合わないもの。幕が上がる頃には、、もういない」

             「決めてかかってほしくないな」

             「でも、、、わかる」

             「奇跡は起こせる。由利亜自身の力で。一番いい場所を由利亜のために空けておく」

             「そんな力ない」

             「あるよ」

             「、、、、、」

             「来て欲しい。由利亜のための舞台を作るから」

             「あたしの、、ため」

             「そう、由利亜のためだけの舞台だ。約束する」

             由利亜は静かにもたれた。透明な滴を落としながらも、穏やかに笑う。

             「やっぱり魔法使いなんですね。何だか、、出来そうな気する」

             「待ってるよ」

             「ありがとう」

 


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