回顧録

戒流、麗羅、珠莉、遥斗、柚葉の昔話です。
テキストのみで写真はありません。


             一方の運び込まれた柚葉。病室の外で待つ戒流の耳には、時計の音だけがやたらと大きく響いていた。

             真上にあった太陽はその姿を消そうとしている。ようやく、部屋から医者が出てきた。

             「柚葉は?」

             「命には差し障りないがあの足は、、、元には戻らんじゃろう」

             「、、戻らない、、あいつは踊り子なんです。踊れないんですか」

             「無茶をいいなさるな。歩くのがやっとじゃ」

             「、、、、そんな」

             「何があったかは聞いたが、思いつめるな」

             すれ違い座間に肩をたたき、医者は立ち去っていった。戒流は扉を見つめ、静かに部屋に入る。

             「戒流、、」

             「どうして、、」

             「どうしてかしら、、考える前に動いてた」

             二度と踊れないことを、知っているのだろうか。戒流からは切り出せない。戒流を見ていた柚葉が天井を仰いだ。

             「もう、踊れないのね」

             「すまない、、私のせいだ」

             「戒流のせいなんて思ってないわよ」

             「だけど私を庇ったせいで」

             「そんな顔しないで、自分がしたくてしたことなんだから。戒流が無事でよかったって、そう思ってるのに」

             嘘ではないと、そう思えるけれど、これ以上は見ていられない。

             「また来るよ」

             戒流は逃げるように病院を後にした。


             「兄さん、、、まだかな」

             「今夜は柚葉についてるかもしれないな。寝てていいよ」

             「待ってる」

             「、、、、戒流」

             店に入った戒流は2人が見えていないように椅子に座り込んだ。

             「戒流、柚葉は」

             「、、、足が戻らない。二度と、踊れなくなった」

             「、、、自分のせいなんて思うなよ」

             「何でだ?柚葉もお前も、何で私を責めないんだ?」

             「あれは事故だ」

             「私のせいだろう!あのとき動けていれば、あいつの足をつぶさずにすんだのに!」

             「そうやって自分のせいにしてるお前をみるほうが、柚葉にとっては辛いんだよ!」

             聞いたことの無い遥斗の怒鳴り声に、麗羅は身体をすくませる。緊張した空気は嫌なほどにわかるが、それでも黙って聞いていた。

             「あいつのためを思うんなら、自分にとってはきつくても柚葉が楽になれるほうを選んでくれないか」

             「遥斗、、お前」

             遥斗は戒流を引き寄せる。

             「それでお前が苦しくてどうしようもならなくなったら、ここで泣き叫んだっていい。いくらでも付き合うから、、、頼む」

             遥斗の腕の中で戒流は泣いていた。相手を気遣うからすれ違う思い。

             からまり、ほどけなくなることだけは避けられるよう、麗羅は祈るだけだった。


             それから、戒流は毎日柚葉の元に足を運んだ。

             「ありがとう。今日は何の花?」

             「何だったかな」

             「自分が買ったのに覚えてないの?まあ、これじゃあね」

             柚葉は部屋を見渡す。大きいとはいえない病室は、日毎に増えていく花で埋め尽くされていた。

             「古いの持って帰るよ。柚葉?」

             「戒流、まだそんな顔しかできないの?」

             「、、、、、」

             「毎日来てくれるのは嬉しいけど、どんな顔してあたしを見てるかわかる?今の戒流にとって、あたしは謝罪するだけの相手?
              あたしに対する気持ちはそれだけなの?旅の思い出話をするときみたいに、笑ってはくれないの?」

             抑えていたものが一気についてでた。戒流もあの日の遥斗との会話が蘇る。

             「すまない、私は」

             「ごめんなさい、、今日は帰って」

             「柚葉のためなら、出来ることは何だってする。これだけは信じてくれ」

             「、、、、、」

             柚葉は答えなかった。瞳を合わさないまま、戒流は病院を出た。

             そして、この日から戒流は姿を見せなくなった。花が枯れ、その全てが無くなっても、この部屋に花が届くことはなかった。


             そして、荷を運び終えた珠莉たちが戻ってくる日。甲板から戒流を見つけた珠莉が、真っ先に船を下りる。

             「お帰り。ご苦労さん」

             「親分、なんかあったんですか」

             「、、、、なんでだ」

             「だって、出て行く前よりやつれてる」

             「、、、勘がいいの、忘れてたよ」

             第六勘。珠莉は、それがやたらと冴える。

             「話は後で。遥斗の店、早めに来てくれるか」

             「わかりました」

             珠莉とて、口をつぐんだ話を無理に聞きだすことはしない。だがその頃、遥斗の店では、、、


             「町を出て行く?本気なのか?」

             まだ開店には早い昼時だった。

             「あたしがいたら、戒流はずっと笑わなくなる。あたしも、、踊れなくなったことじゃなくて、そんな戒流を見ている自信がないの」

             「戒流も考えてる途中なんだ。どうすればお前のためになるのか。不器用だから作り笑いが出来るようなやつじゃない。
              ここでお前が出て行ったら、そっちのほうがよっぽどこたえるぞ」

             「ごめんなさい。これ、戒流に渡してくれないかしら」

             差し出されたのは一通の手紙。

             「会わないつもりなのか?病院で何を言ったのか聞いてる。あんな別れ方のまま、何も言わないで行くつもりなのか?」

             「、、、」

             「頼まれてたように、退院したことも黙ってた。顔を合わせずらいのも、時間がたてば落ち着くだろうって思ったからだ。
              おまえと戒流がここに戻って、また一緒に笑えるって信じたから、おい、柚葉!」

             「あたしは、、そんなに聞き分けのいい女じゃなかった。自分でも嫌になるくらい」

             「柚葉、、、」

             「一番ずるいとことはわかってる。でも、こうさせて」

             「柚葉さん、、、」

             柚葉は麗羅を抱き寄せた。

             「ごめんなさい、あたしが我侭だから」

             「誰のせいでもない、、また、会えますよね」

             「、、、そうね、きっと。遥斗、戒流のことお願い」

             「、、、わかった。元気で」

             「ありがとう」

             ゆっくりと歩き出す。そして、その姿が消えた。

             「もう、、駄目なのかな?皆で一緒に笑うことは出来ないの?兄さん、、遥斗、、珠莉、、柚葉さん、、大好きなのに、、」

             「また会えるさ。信じよう」

 


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