回顧録

戒流、麗羅、珠莉、遥斗、柚葉の昔話です。
テキストのみで写真はありません。


             陽が傾きかけた夕方。いつもなら勢いよく開く扉が、静かに開いた。

             「お帰り、珠莉」

             後ろには暫く顔を出さなかった戒流。

             「戒流、一発殴らせろ」

             「兄貴!?何で」

             「柚葉に何か」

             言い終わる前に遥斗の手加減なしの拳がとんだ。

             「柚葉は町を出て行ったよ」

             「、、、何だって、、」

             「これ、お前宛に預かってる」

             遥斗はさっきの手紙を差し出す。中に一緒にあったのは、踊るときにはめていた指輪。最初の航海で土産に買ったものだった。

        

             ごめんなさい。あなたに会ったら何を言い出すかわからないから、このまま町を出ます。

             戒流、ひとつだけお願い。自分を責めることだけはしないで。

             踊れなくなったこと、寂しくはあるけれど、自分がしたことを後悔はしていません。

             だから、笑ってください。きっと、また会えるから。そのときは、一緒に飲みましょう。              柚葉

        

             「柚葉、、、、く」

             力任せに壁を殴りつけた。

             「親分、、兄貴も、何がどうなって」

             「珠莉たちの船が出た後、荷崩れがおきたんだ。戒流を庇った柚葉が下敷きになって、命は助かったけど、踊れなくなった」

             「そんな、、、踊ることが大好きだって、、あんなに楽しそうだったのに」

             「誰が悪いわけじゃない、、。事故なんだけどな」

             そういう遥斗も拳を握り締めて唇を噛む。交錯しからんだ思い。それは硬く結び目をつくり、それぞれの心に残っていった。

             「珠莉」

             「親分、、、」

             「こんなことの後じゃやりにくいとは思うけど、皆にはいつものように声をかけてくれ。悪いけど、、頼む」

             「、、、はい」

             「遥斗、麗羅のこと暫く頼めるか?このとうりだ」

             「預かるのは構わない」

             「兄さん、、兄さんまでいなくなったりしないよね?またここに来るんでしょう?」

             「そのつもりではいるよ、、悪い」

             「兄さん!」

             出て行く戒流を、遥斗も珠莉も引き止めることは出来なかった。


             海からの風を受け、手元に残った柚葉の指輪を見つめる。贈ったものがこんな形で返ってくるなど、誰が想像できるだろう。

             「どう、、償えばいいんだ?お前はもういないのに」

             いない相手に何が出来るというのか。夜の水底に似た深い闇に落ちていきそうな気がした。ふと上げた顔の先に、人影があった。

             「決まりました?」

             数日前に現れて、一緒に来て欲しいと、自分を誘っている相手だった。

             今、自分までこの町を離れれば、逃げているといわれても仕方ないだろう。

             だが、今回の一件はその決心をさせるのには十分すぎた。

             「最後の航海をさせてくれないか。それが終わってからでもいいんなら」

             「わかりました。では、また改めて」

             そう答えると、足音も立てずに夜の闇へと姿を消した。

             この町を離れても、せめて忘れないでいようと、小さな指輪を握り締める戒流だった。

 


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