回顧録

戒流、麗羅、珠莉、遥斗、柚葉の昔話です。
テキストのみで写真はありません。


             喧嘩の後の片づけを終えた店では、遥斗が1人で飲みなおしていた。

             「寝てなくていいのか」

             「飲んだ気がしないんでな。私にもくれ」

             「一杯だけにしとけよ」

             琥珀色に満たしたグラスを戒流に差し出す。

             「次の航海、いつになるんだ」

             「麗羅の誕生日の、3、4日後」

             「ならここで一席つくるか。私と柚葉と珠莉くらいだけど」

             「遥斗、麗羅のことは感謝してるよ。ありがとう」

             「なに、私も弟が出来たみたいで楽しいよ」

             「今度の航海を最後にしようかと思ってる」

             戒流の言葉に遥斗の手が止まった。

             「最近迷うんだ。海に出てる時間のほうが多くなるにつれ、このままでいいのかって。迷ったまま海に出て、楽しいと思えなくなる前に
              、、、いっそ、降りたほうがいいような気がしてな」

             「、、、迷ってるなら、まだ海の上でもいいんじゃないか」

             「、、、、、」

             「どちらにするか決着がつくまでは、迷っていてもいいと思うがな」

             「決着がつくのかな」

             「地上では無理でも海の上ならつくかもしれない。きっと、つくよ」

             遥斗の言葉に戒流は安心したような気持ちになる。まだ迷っていてもいいのだと。

             これはこれで、今出せる精一杯の答えなのかもしれない。

             「そうだな、焦っても仕方ないか。助かったよ遥斗、ありがとう」

             「別にいいよ。麗羅の誕生日、ここでいいんだろう?」

             「ああ、頼む」

             麗羅の誕生日。あの事件が起こる一週間前のことだった。


             そして当日。遥斗の店では、準備を終えた遥斗と柚葉と麗羅が、戒流と珠莉の到着を待っていた。

             「まだかしら、、。遅いわね、2人とも」

             約束の時間をすぎて30分。時計を見ながら柚葉が呟く。

             「プレゼントを選んでる真っ最中なんだろう。決まらないんじゃないのかな」

             「居てくれるだけでいいのに」

             その麗羅の言葉と同時に、店の扉が乱暴に開いた。

             「兄貴!手伝って!」

             「珠莉?おい、戒流!」

             珠莉に肩を借り、ようやく立っている状態の戒流だったが、それも限界に達したのかそのまま崩れ落ちる。

             その声だけを聞いた麗羅は、触れた柚葉の腕を掴んだ。

             「何が、、あったんですか?兄さんがどうしたの?」

             その麗羅を柚葉はしっかりと抱いた。

             「落ち着いてね。戒流、撃たれてるわ」

             「撃たれて、、何で、、どうしてそんなこと!」

             「それは、これからだから」

             「兄さんのところに」

             麗羅の手を引き、傍らへと寄せる。

             「兄さん、、何で」

             「、、、れ、、い、、」

             「しっかりして、兄さん」

             言葉にならない、荒い呼吸だけが届く。

             「珠莉、何があった」

             「ここへ向かう途中、突然撃たれて、、。あいつだよ。この前の喧嘩の相手」

             「確かなのか」

             「月明かりの中でしっかり見た。間違いない」

             遥斗は慎重に傷に触れる。

             「ぐあ、、う、、、」

             「、、まだ抜けてなさそうだな。珠莉、運ぶの手伝え。柚葉は麗羅といてくれ。落ち着いたら呼ぶから」

             「わかったわ」

             「兄さん、、、ねえ、、」

             「、、、、、」

             「嫌だよ!返事して!」

             「、、、た、、ん、、び、、まだ、、だ、、」

             「喋るな。急ぐぞ」

             「はい」

             2人は慎重に戒流を運び込む。

             「兄さん、、、」

             見えないことが一層不安を煽り立てる。柚葉の腕の中で麗羅は小さく震えていた。

             「、、、離さないでください、、兄さんが、、戻るまで、、」

             「大丈夫、いるわよ」

             その言葉は祈りにも似ていた。

 


Back   Next