回顧録
戒流、麗羅、珠莉、遥斗、柚葉の昔話です。
テキストのみで写真はありません。
そして夜。
「兄貴〜、ただいま」
「お帰り、珠莉」
勢いよく扉を開け、珠莉が店に入った。続いて戒流が仲間たちを連れて入る。
「いつものとうりだ。好きなだけ飲んでくれ」
戒流の声に歓声が上がった。全員に酒が回ると戒流がジョッキを掲げる。
「それじゃ始めるか。航海の無事を女神に感謝し、次の航海の無事を願って、乾杯!」
「乾杯!」
そして、それぞれに散っていく。友のもとへ、待っている誰かのところへ。そのまま思い出話に花が咲く光景もあった。
「お帰りなさい、戒流」
そう言って自分の持っていたグラスをジョッキに合わせたのは、店の踊り子の柚葉。
「ただいま」
「柚葉さん、俺も」
「忘れてないわよ。お帰り、珠莉」
「悪い、今回は土産ないんだ」
「いいわよ。それよりも、麗羅の誕生日に仕事入れてないでしょうね」
「ああ、延ばしてもらった」
「もう少しかまってやりなさい。待ってるわよ」
「わかってる、、。顔出してくるよ」
そう言って席を立ったとき、背後で怒鳴り声がした。見れば、戒流の船と別の船の男同士の喧嘩。珍しいことではない。
「あいつら、、また」
出ようとした珠莉を戒流が止めた。
「親分、けどあいつら」
相手は、何かにつけて戒流たちにつっかかってくる連中だった。そのほとんどは言いがかりかやっかみ。
相手にするなといってもとにかくしつこくて、嫌気がさしているのは戒流とて同じことだった。
「私が出る。ここにいろ」
珠莉を押し戻し、戒流が出た。待ってましたとばかりに相手は戒流に掴みかかる。
無用な喧嘩は避けたかったが、こうなれば早く方をつけたほうが利口といえた。
誰が見ても分があるのは戒流。そろそろかと思ったとき
「つ、、、」
相手が手にしたナイフが戒流の腕を切り裂いた。
「親分!」
「来るな!」
戒流は相手を見据える。
「親分、本気になったな」
相手をひるませるのには十分だった。時間をかけずに、相手を殴り倒して喉元に刃先を突きつける。
「まだやるか?」
歯軋りをして最後の力で戒流を突き飛ばすと、相手は店を駆け出していった。
「親分!」
「腕見せて」
椅子に戻った戒流に珠莉や仲間たちが駆けつける。
「大丈夫、深いものじゃない。つ、、だからってそんなに締めなくてもいだろう」
「相手がナイフを出す前に終わらせられなかったの?麗羅にあんな顔させて」
騒ぎに気がついたのか、いつの間にか麗羅が店に出ていた。遥斗につかまりながら、見えない目でそれでも前を見ようとする。
戒流は麗羅の前に立った。
「店の修理代、いくらになる」
「呑気なこと言って、、でも、これならたいしたことなさそうだよ麗羅」
「兄さん、、何処に、、」
戒流を探して伸びた腕を、そっと取った。
「大丈夫、たいしたことない」
「よかった、、」
「戒流、少し休んでろ。こっちはやるよ」
「、、悪いな。いいか」
「俺たちで片付けますよ、親分」
「頼むよ」
店の奥へと入る2人を見届けると、一斉に片付けにかかる。
「柚葉さん、ほんとのところ、親分の傷の具合ってどうなの」
「深くはないけど大きく切ってるから、今夜あたりは熱を出すかもしれないわね。遥斗、2人の面倒見れる?」
「構わないよ。店の修理代に足しとくから」
「あ、それ払います」
「じゃ、、次の航海で土産を山ほど。これでどうだい」
「兄貴、、、ありがと」
カラン、と何かが鳴った。
「兄さん、何か飲んでる?」
「ん?ああ、これか。ただの水。酒じゃないよ」
冷やした水を持って麗羅の隣に腰を下ろす。
「次の航海、いつになるの」
「お前の誕生日の後、3日か4日くらい後だな」
「じゃあ、その日は」
「いるよ。何か欲しいものあるか?」
「いてくれるだけでいい。ありがとう」
麗羅はそっと身体を寄せる。見えないことを恨みはしないけれど、不安は付きまとう。言葉でどういわれても、触れる以外に確かめる術は無い。
「麗羅、もし私が船を降りるって言ったら、どう思う」
「、、兄さん、、?」
驚いて顔を上げた。
「何で、、どうしてそんなこと考えてるの?だって海に出るの何よりも好きなはずでしょう?
何処で何があったか、いつも帰った後楽しそうに話してるじゃない。大切な仲間と、一番好きなことをしてるって」
「もしもの話だよ」
だが麗羅には聞こえていなかった。
「僕のせいなの?遥斗や柚葉さんに迷惑がかかるから、だからそんなこと考えてるの?
お願い、僕のために船を降りるなんて考えないで。遥斗や柚葉さんには僕から頼むから」
「悪かった、急にこんな話して。だから泣くな」
瞳にたまった涙を掬い取る。
「寝るか。夜も遅いし。私も今夜は世話になるから」
「、、、傷、気をつけてね」
「ああ、お休み」
まだどこか不安そうな麗羅を寝かしつけ、戒流は店へと戻った。