


透明な糸([)
暫くして戻った愁馬が手にしていたのは絵皿だった。中央に描かれているのは翼を広げた一羽の鳥。
「青い鳥か、、、上手だよ」
「ほんとにそう思う?」
「うん」
「見せてくれ」
絵皿がレイスに渡った。愁馬は課題の添削を待つような気持ちになる。
すると
「私達、、、いや、ガレリアにこれを譲ってくれないか」
「え?」
「レイス、、、どうしたの」
思いもしない言葉に揃って返す。
「青い鳥は幸せを運ぶという。
ガレリアを幸せにする手伝いをしてもらいたい」
「レイス、、、(何で急にそんな)」
昔のことを聞いたからといって変わるつもりなどない。
鳥でも主でもない今が続くこと、それが望みだ。
今が不幸なら、何が幸せだというのだろう。
出掛かるも
瑞樹と愁馬の前で言葉に出来るはずも無くガレリアは黙った。
愁馬も迷った。
幸せにする手伝い。では今は?
ソレアの丘で聞いた言葉が浮かぶ。
いたい人と一緒にいられる。それが一番幸せだと。
そして今のガレリアは、その幸せが叶っているのだと信じた。
「今のガレリアさんは、、、違うの?」
愁馬が問いかけた相手はレイスだった。
答えを待つガレリアの鼓動が高くなる。
そしてレイスは迷い無く言い切った。
「今が続くことを願ってだ」
「レイス、、、、、」
「私の自惚れだと思いたくないが」
向けられたのは優しい笑みだった。
「えっと、、、ありがとう」
答えになっていない気もするが、瑞樹と愁馬の手前以上の言葉が出なかった。
だが否定ではないことは愁馬にも伝わったようだ。
「包んでくるね。待ってて」
笑顔になり再び店の奥に入った。
瑞樹もレイスとガレリアの関係に何となく思い当たった。
相手の幸せが己の幸せ。そんな2人なのだろう。
そんな相手がいるから強くなれる。
目には見えない想いを信じられるほどに。
瑞樹が思い浮かべたのはアリエルであり、ルディだった。
「大切な人、、、、か」
「え?」
瑞樹が落とした呟きをガレリアが聞きとめた。
「いえ、自分の手で守りたい大切な人がいて
その為になら苦労を惜しまない。
少しばかり羨ましいと思いましてね」
ガレリアは返答に詰まった。
ルディやアントワネットの前でなら気にならない言葉だが
初対面の相手から言われると妙に気恥ずかしくなる。
が、レイスはあっさりと言ってのけた。
「何よりも大切な私の存在理由だからな」
「レ、、、」
「そんな相手に巡り会いたいものです」
受けた瑞樹も瑞樹でにこやかに返す。
「(レイスって鈍いのか気が回るのかどっちなんだろう。それに瑞樹さんだっけ、余裕で返せるなんてすごい)」
ガレリアのそれは感嘆だった。と
「お待たせしました」
愁馬が丁寧に梱包された絵皿を持って戻った。
「はい。ガレリアさん」
「ありがとう」
幸せを運ぶという青い鳥。
人は形にならない想いを形あるものに託す。
時にそれは言葉よりも強い。
「そろそろ行くか」
「うん」
2人を店の入り口で送る愁馬は、少しだけ胸がきゅっとする。
瑞樹の優しい手が肩にのった。
「また会えるよね」
「勿論」
「お待ちしていますよ」
「ありがとうございます。愁馬のことお願いします」
「ではこれで」
「いい旅を」
「またね。ガレリアさん、レイスさん」
「元気でね愁馬。失礼します」
小さな青い鳥を携えて、2人は店を後にした。