

透明な糸(Z)
2人が店を出た直後、お茶を持って愁馬が奥から出てきた。
外れているのに気がつくと、アリエルと瑞樹の分だけを置きぺこりとお辞儀をして戻る。
その判断が出来ることに瑞樹は感心すると同時に、いい子すぎるのが少し気になっていた。
そしてアリエルは感嘆しかでてこなかった。
「随分しっかりしたお子さんですね」
「ええ。私なんかよりずっとね。話を進めましょう。品を見たいということでしたが、工房から許可がでました」
「そうですか。ご紹介ありがとうございます」
「工房までご一緒するのが筋ですが
別に仕事を抱えているもので私のほうはここまでに願えますか。
明日までに、私の名を出してもらえれば通るようにしておきます」
「わかりました。あとはこちらで。工房は何処になりますか」
「愁馬、近所の地図って置くにあったか」
「あるよ。待ってて」
がたごとと音がして暫く、出てきた愁馬は地図を広げた。
「これでいい」
「ありがとう。現在地がこの辺り。工房は、ここですね」
瑞樹が示す場所をアリエルは追っていく。そう遠くはなさそうだ。
「こちらお借りしてもかまいませんか」
「どうぞ」
アリエルは丁寧に折りたたみ鞄に入れた。
「瑞樹さん、お茶の葉なくなりそうだから買ってくるね」
「気をつけろよ。財布はいつものところだ」
「はい。失礼します」
愁馬は市場へ向かった。
その後姿を見送り、出されたお茶で一息つく。
「本当に礼儀正しいですね。違っていたら失礼ですが、あなたの」
「いいえ。友人の忘れ形見です。少しばかり事情があって、引き取りました」
「だから、、、、ですか」
愁馬が瑞樹を名前で呼んでいる訳が、それで納得できた。
ふと、愁馬とフィータを重ねてしまったのだがフィータと同じ例がそうあるはずもない。
「申し訳ありませんでした」
「気にしないでください。キエヌは初めてですか?」
「そうですね。
弟の病気もあって、サルバスを離れることは滅多にありませんから」
「弟さんは、、、」
「私のことを兄と呼ばないのはお気づきでしょう」
「ええ」
アリエルはためらいなく口にしていた。
「先天性の障害で、私を兄とは認識できていません。
一緒にいたいとは言ってくれますが
昔からずっと名前で呼んでいます。
私も、フィータの両親に引き取られたんですよ。孤児院から」
「、、、、、」
「子供に恵まれなかったフィータの親が私を引き取りました。
その後でフィータが生まれたので、立場上は私が兄です。
両親は私とフィータを分け隔てなく育ててくれた。
フィータのことも、育ててくれた親のことも
一緒に暮らしているオルガも私にとっては大切な家族です。
けれど、時々考えてしまう。フィータにとって、私は何なのか。
私を、、、どう思っているのかと」
「、、、逆ですね。私達と」
「それは?」
「私の弟の話、覚えていますか?」
「確か、、、今はキエヌを離れているのでしたね」
「弟の絡瑛は、父の後妻の連れ子です。だから、私とはそういう意味での繋がりはありません」
「、、、、、」
「こういう形であなた方と知り合ったのも、何かの縁かな」
瑞樹は微笑んだ。
「確かに歯がゆいことも多いでしょう。
けれど、一緒にいたいと互いに望んで叶っているのだからそれが何よりだと思いますよ。
絡瑛は家には戻りません。戻ってほしいと望んでも」
瑞樹の手がそっそ胸元に乗る。大切なものを優しく包むように。
どこか共通の想いを抱えているのかもしれない。瑞樹と会ったことにアリエルは感謝をした。
「お会いできてよかった。今度は仕事抜きでゆっくりしたいものです」
「ええ、こちらこそ。サルバスに出向いた時は、あなたの宿を使わせてもらいますよ」