



悪戯心
同じ日。
「確か今日よね」
この日はケイオスが同じ花を買いに来る日。
大切な人の月命日には同じ花を買いに来る。
「それにしても、まさかあんな事情があったなんて」
ハンナはソプレーゼの気まぐれな嘘を疑いなく信じていた。
そこに
「こんにちは」
「はい。いらっしゃいませ」
ケイオスがやってきた。
「いつものお願いします」
「、、、、あの」
「何か?」
「い、いいえ、何でもないです」
きびすを返しいつもの花束を作り始める。
無論、ケイオスがソプレーゼの言葉を知りえるはずがない。
「どうぞ」
「ありがとう。いつも綺麗に作ってくれるから助かります」
花を抱えたケイオスは、やはりソプレーゼと似ていると思った。
そしてやはり、ハンナは同じ事を考えた。勿論、純粋な励ましの意味で。
「あの、ケイオスさん」
「はい」
「お兄さん、大切になさってくださいね」
「、、、、、はい?」
何のことかわからずケイオスは聞き返す。
「あの、何のことですか」
「ソプレーゼさん、でしたっけ。酒場をやっていらっしゃる。
今日みえたんです」
「あいつが?」
「事情はお聞きしました」
「あいつが何を」
がしと、ハンナはケイオスの手を取った。
「例え公にできない事情があっても大切な兄弟ですもの。
もちろん、他言はしません。仲良くなさってくださいね」
「ソプレーゼがそんな事を?(あの野郎、何のつもりで)それは」
訂正しようとしたが、真剣に心配し励ましているハンナに押される。
そしてやはり
「すみません」
次の客が来た。
「すみません、これで。ありがとうございました」
「、、、、いえ」
ハンナは次の客の相手に移った。
「、、、、何のつもりで、そんなこと言ったんだ。事の次第じゃ、ただでは済ませないからな」
その日の夜。
「(とうとう、訂正に行けなかった)」
店の仕込みと何だかんだで、ハンナの店に行くことは出来なかった。
明日の朝一番でと思っていたところに
「ソプレーゼ」
ケイオスが来た。
「あ、、と、、悪い。いつもの切らしてるんだ」
「なら、同じくらいの値で任せる」
言って、テーブルに着く。
ケイオスがあの花屋に行っていないことを願い、酒を運ぶ。と
「お前が俺の兄とは知らなかったな」
「、、、、、」
言葉の出ないソプレーゼにケイオスも無言で返した。
「あの店、行ったのか?」
「毎月使ってるんだよ。いきなりこう言われた。
”お兄さん、大切にしてください”」
「、、、、今日の今日とはな」
「人の名前勝手に出して、ややこしくなるような嘘つくな」
「、、、、悪い」
弁解の余地はなく、ソプレーゼは素直に謝る。
「まったく、何だってあんな嘘」
「彼女がお前と私が似てる気がするって言うから、つい、、さ」
「、、、、それだけか?」
呆れた声でケイオスは返した。
「、、、正直、それだけだ」
これには怒る気も失せ、ため息と共に最初の一杯を空ける。
「子供の悪戯じゃあるまいし、、、お前幾つだよ」
「訂正するつもりだったさ、勿論。だが、あそこまで真剣になられると返せなくてな。
それに、すぐ次の客が来たからそのまま言いそびれたんだ。
でも、お前が行ったってことは訂正してくれたんだろう。悪かったな」
「、、、、、してない」
「何?」
沈黙が流れる。
「、、、、、」
「、、、、、」
「つまり、訂正してないってことか?」
「、、、同じようにすぐ次の客が来たからな。
俺のほうも急に応援要請が入って、さっき片付いたところだ」
「、、、、、まずいよな」
「当たり前だろう」
「明日の早いうちに行くか」
「そうだな。俺も行くよ。何時くらいなら手が空く?」
「わざわざいいよ。忙しいだろう」
「お前一人に行かせたら、余計ややこしくなりそうだ」
「おい、、、(そこまで信用無いか?)まあ、そうだな。
昼にそっちの手が空くなら、外で昼飯ってのはどうだ?」
「なら、正午に広場で会おう。
15分以上遅れたら抜け出せなかったと思ってくれ」
「わかった。それから、今日のボトルはサービスしとくよ」
「それくらいなら受けるかな」
ソプレーゼなりの詫びだろうと、ケイオスはそれを受けた。
貸し借り無しにしておいたほうがお互いのためだ。
「マスター、いいですか」
カウンターからソプレーゼを呼ぶ声がした。
「今行く。じゃ、明日。ゆっくりしていけ」
「またな」
カウンターに戻るソプレーゼを見ながら、ケイオスは思う。
「あいつが兄貴ね、、、。そんなに似てるかな」