悪戯心


次の日。正午という約束にケイオスは10分ほど遅れた。

「忙しいのに悪いな。大丈夫か」

「昼飯の時間くらいあるさ」

「花屋が先のほうがいいだろう?」

「誤解は解いておかないとな。それに、彼女にいらない心配させても悪い」

「行くか」

2人はハンナの店に向かった。


「あ、、、いらっしゃいませ」

「こんにちは」

「昨日はどうも」

改めて2人並ぶ姿を見ると、ハンナは何となく嬉しくなった。

「あの、実は昨日の話」

ソプレーゼが言い終わる前に、ハンナがにこやかに返す。

「勿論、誰にも言いません。お2人が並んでいるの、何だか嬉しいです」

「、、、、、」

「、、、、、」

この思いやりをぶち壊すのは本当にすまないと思う。

だが、このままでいいはずもない。

真実を告げたのはケイオスだった。

「気にかけてくれるのは本当に嬉しく思います。
 ただ、、、申し訳ない、この通り」

「あの、、、、?」

揃って頭を下げた2人にハンナは不思議そうに呟いた。

「昨日の話、こいつの嘘なんです」

「嘘?」

「私とケイオスが似てるっていう君の言葉を聞いたとき
 ふいに浮かんだ悪戯心だったんだ。勿論、訂正するつもりだった。
 ただ、本当に真剣に心配してくれたから、つい言いそびれてしまって」

「じゃあ、、、お2人って」

「とんでもない嘘を思いつく悪友だけど、兄だっていうのは違います。
 俺も昨日寄った時に訂正すればよかったんだが、、、その、本当にすまなかった」

「そうだったんですか。あの、顔上げてください。本当に悪気は無さそうだし、わかりました」

「許してもらえますか」

「はい」

「ありがとう、ハンナさん。君は優しい人だね」

名前を呼ぶソプレーゼに、自分は今まで聞かなかったことに気がつく。

「そんな、言われるほど」

「初めて会った相手のことをあんなに心配できるんだから、優しい人だと思うよ」

「ありがとうございます」

「お前な、この状況で普通口説くか?」

「口説いてるわけじゃないさ。感じたままを言ってるだけだ」

「それを屁理屈って言うんだ」

「じゃあ、お前はどう思う?私が感じたことに反対か?」

「それは、、、、そういう振り方をするな」

このやり取りを聞いたハンナはくすりと笑った。

互いに信頼しているからこそなのだろう。

「お互いに、大切な友人なんですね」

「ま、こんなやつですけどね」

「今回は私が発端だ。悪かったと思ってるよ」

少しばかりきつい目を向けたケイオスに、ソプレーゼは素直に謝った。

「時間、大丈夫か」

「ん、そろそろ行くか。また寄らせてもらいます」

「そうだ。昨日の花、上手く使えたよ」

「本当ですか。よかった」

「後で買いに来る。同じものがあれば、取っておいてもらえるかな」

「わかりました。用意しておきますね」

「よろしく」

「それじゃ、これで」

「わざわざありがとうございました」

2人を見送り、ハンナは昨日の花束を作り始めた。

「似てることは確かだけど、他人の空似だったのね」

嘘をつかれたことに変わりは無いが、この後味は悪くない。

それに、少しだけ近くなれた気がする。勿論、ケイオスの心には亡くなってなお大切な恋人がいるのは承知だ。

「友人なら、、、、」

その呟きをハンナはそっと飲み込んだ。


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