


悪戯心
街角の小さな花屋。心地よい日差しを受けながら店先の花が揺れている。
「いいお天気。花たちも、きっと喜んでるわね」
この店で働くハンナは、そんな花たちに自然と笑顔になった。と、店の前で一人が足を止めた。
「いらっしゃいませ」
「少し見させてもらいますね」
客の男は幾つかを手に取り、選び始めた。
「(、、、、長いわね)」
それからかなりの時間が過ぎた。だが、客はなかなか決まらないようだった。
さすがに放ってはおけなくなり、ハンナは声をかける。
「何かお探しですか?」
「ああ、すみません、長くなって。酒に使える花を探してたんだけど」
「お酒?」
花とは無縁に思えるものに、ハンナは聞き返した。
「花の、、、お酒ですか?ご自分で作るの?」
「ええ。酒場を持っているので、自分でも作るんですよ。
色づけと香付けに、何か使えるものはないかと思って」
「そういうことですか。あ、それなら」
「何かありますか?」
ハンナが思い出したのは、開きすぎて売り物には使えない花だった。
そういう使い方なら、かえって向いているかもしれない。
「開きすぎて売り物には使えないものがあるんです。
もちろんお代はいりませんから、試してみたらどうかしら」
「だけど、ただという訳にはいきませんよ」
「でもこのままだと捨てるしかないんです。
お役に立てるなら、その方が花もきっと喜びます」
「う〜ん、、、じゃ、とりあえず見せてもらってもいいかな」
「はい。お持ちしますね」
言ったハンナは一度奥に入り、しばらくすると両手に抱えて戻ってきた。
「これなんですけど」
「こんなに?」
「この種類は特に開き始めると早いんです。
お酒に使えるかは正直お約束できませんけど、よかったら」
「かえって悪いな」
「上手くいったら、今度は買いにきてください」
にこりと花に似た笑顔が向けられる。
「わかりました、使わせてもらいます。えっと、、、」
「あ、ごめんなさい。ハンナです」
「私はソプレーゼ。ありがとう、ハンナさん」
「(誰かに、、、、)」
花を抱えたソプレーゼが誰かに似ていると思った。
「どうか、しましたか?」
「いえ、、あの」
まじまじ見つめるのは失礼だと思うのだが、どうにも気になる。
ハンナは控えめにソプレーゼを見つめた。そして思い当たった。
「ケイオスさんだわ」
思わず言葉にしてしまい、ハンナは慌てて口を押さえた。
「ケイオス?、、、あの」
「ごめんなさい。誰かに似ている気がして。
警備隊のケイオスさんに似てると思ったんです」
「おや、こんな可愛いお嬢さんと知り合いとはね」
「い、いえ、、知り合いというか」
何故かハンナは慌ててこんな言い訳をしていた。
「ほら、お仕事がお仕事だから、この通りでもお見かけするんです。
やっぱり、制服は目立つし、通りの人たちも安心できるって」
「、、、、、」
どうして、ここでこんな気まぐれな嘘を思いついたのかわからない。
だが、ソプレーゼは小さな嘘を思いついていた。勿論、訂正するつもりはあったのだが。
「少し残念かな。ケイオスにあなたのような人がいてくれるのかと思ったけれど」
「残念?」
「ええ、実は」
ソプレーゼは声をひそめた。
「、、、、弟なんです」
「え?」
今度こそ、まじまじとソプレーゼを見つめた。
「少しばかり事情があって、公ではないし住まいも別ですが」
「あ、、、」
少しばかりの事情という言葉にいくつかが浮かんだ。
ハンナは深刻な顔になる。
極端だったかと訂正しようとしたソプレーゼの手を
先にハンナはがしと掴んだ。
「え」
「そうだったんですか。
でも事情があっても一緒に住めなくても大切な兄弟です。
どうかお力になってあげてください」
「あ、、あの」
強く真剣な励ましを、ハンナはソプレーゼに贈った。
勢いに押され、ソプレーゼは次の言葉が出ない。
「仲良くしてくださいね」
「(いや、、、まずい。訂正しないと)」
だが
「すみません」
「はい。ごめんなさい、これで。ありがとうございました」
次の客が店を訪れ、ハンナはお辞儀をするとそちらに向かった。
「、、、、、」
ひとまず離れ様子を窺うが、こちらも長い客で終わりそうに無い。
「出直すか」
まさか今の今でケイオスは来ないだろうと、一度諦め店へと向かった。