



「まったく。急に降り出すな」
数日後、急に降り出した雨をしのごうと、ハワードは酒場に入った。
「、、、、満席か」
見回した店内はすでに満席のようだった。同じように雨をしのいでいる客も居るのだろう。
「お一人ですか」
「ああ」
「少々お待ちください」
店員は一人でテーブルについていた客に話しかけた。
頷いた客は背中を向けている。短い会話を終わらせ店員が戻ってきた。
「あちらのお客様が相席でよろしければと」
「かまわないよ」
そう長居をするつもりはない。ハワードは同じテーブルについた。
「お借りします」
「どうぞ」
返した相手にハワードは息を呑む。
「どうかしましたか」
「、、、、いえ」
相手はグラディスだった。
「(似てる、、、、あの頃の父さんに)」
忘れるはずも無い面影。
目の前に居るのは間違いなく当人なのだが
魔物に殺されたと信じるハワードは他人の空似だと思った。
それに、グラディスの時はあの頃から止まったまま。
一方のグラディスは青年に成長した息子には気がつかなかった。
「何になさいますか」
「あ、、と、、、こちらと同じもので」
「はい」
注文を出し座るが、どうにも落ち着かない。
「本当に、何かありましたか」
グラディスが気遣う。返った言葉は
「すみません。死んだ父に、本当に似ているもので」
今度はグラディスが驚く番だった。が、どうにか内心で押さえる。
「お亡くなりに」
「ええ。森に住む魔物の手にかかったと、幼い頃教えられました」
「(まさか、、、そんな形で伝わっていたのか?)」
森に住む魔物。今はその魔物といわれる存在が自分たちだ。
過ぎったのは最悪の形での再会。
「、、、そういえば、村の人たちがハンターがきたと言っていましたが
もしかして、あなたのことですか?」
「おそららく、私のことでしょう。父の敵を討つために戻ったんです」
「(こんな、、、、こんなこと)」
息子は生きている。
だが、そのハワードがハンターとなり自分を追う者となっているとは。
そして、父の敵を討とうとしている。
「すみません。穏やかな話ではありませんね」
「いえ」
「それにしても、本当に似ている。
生きていたら、こんな風に酒も飲めたでしょうに」
「、、、、、」
「よければ、お名前聞いてもいいですか」
「ヘンリーと」
「私はハワード。思いがけない方とお会いできました」
微笑に見え隠れする面影が、グラディスの胸を強く締め付けた。
どうにか世間話で終わらせ、グラディスは館に戻った。
「おかえりなさい」
「、、、フレイア、引き払う準備を始めてくれ」
戻るなり告げたグラディスにフレイアは驚くが、察しはついた。
「ハンターね」
「村の人間がハンターを雇ったそうだ。狙いはここだろう」
「、、、いつまで続くのかしら」
「フレイア、、、」
長すぎる追いかけっこは生きている限り続く。
そしてフレイアは自分よりも遥かな時を生きてきた。
「何だか、、、疲れた」
落ちた言葉は本音だろう。
だが、ハワードの手にかかってほしくない。
またフレイアも嫌というほどわかっている。
自分を守るために討たれた仲間の想いは。
「ごめんなさい。聞き流して」
「フレイア、頼みがあるんだ」
「何」
「一人で先に出てくれないか」
「、、、、、」
「ハンターは私が食い止める。その間に出来るだけ遠くへ。
引き払う準備の間、使えそうな館を調べておくから」
「、、、、どうして。今までずっと一緒だった。
どうして急にそんな」
「腕の立つハンターと評判の相手だ。
相手をして時間を稼ぐからその間に逃げてほしい」
グラディスの言葉は嘘ではなかった。だが、その裏にはもう一つ。
ハワードの相手をすることが、親としてできる唯一のことだと。
「まさか、、、そのハンターは」
フレイアも気がついた。浮かんだ最悪の再会。
「そうなのね。あの時の」
「言わないでくれ」
「、、、、、」
「追う者と追われる者。
私は君と共に闇に生きる者。それだけだ」
「グラディス、、、、」
「急いで」
背中を向けたグラディスをフレイアは抱きしめた。
「追いかけてきてくれるわよね。一緒に生きて、、、」
「、、、、生き延びることができたなら」
すがるようなこの腕を一人にはしたくない。だがその一方で、、、、。
矛盾する願いがグラディスの中で天秤にのり大きく揺れる。
腕を解き、口付けを交わした。強く互いを刻むように。紅の月光が、夜の闇を切り裂いてきた。