月詠


「青藍」

「、、、、、」

「大丈夫?怪我は」

「どうして、、、、、」

東雲の言葉が離れない。

本当に人の命を奪うような月詠を、自分はしたのだろうか。

月詠は毎日のことだし、確かに全てを覚えてはいられない。

だが、個人の命に関わるような月詠を忘れているとも思いたくなかった。

「青藍。ね、あたしの声聞こえてる?」

「樹荊、、、、」

今気がついたように視線が動いた。

「樹荊、私の月詠で人が死んだことがありましたか」

「人が死ぬ?」

樹荊は膝を折り、青藍と手を重ねた。

「この国に住む人の生死を
 月詠で判断してるわけじゃない。
 予見してきたのは 災害や実りの具合だろう?
 よりよい結果を導くために、あたしたちは動いてきたんだ」

「でも、、、、」

「東雲と何を話したの?」

青藍はゆっくりと東雲の言葉を紡ぐ。

「私の月詠で人が死んだと。桂という場所で何かが」

「桂、、、、」

「嘘だと思いたい。
 だけど、あんな嘘をつく必要があるのだろうか。
 嘘ではないなら、私は何を言ったの」

樹荊に対しての問いではなく独り言だった。

考えるなというほうが無理な要求だろが
事情を知っているのは東雲と冬牙だろう。

青藍がいくら考えたところで、求めている答えは出ない。

「青藍、今はお休み。
 事情はこれから調べなきゃわからない。
 東雲が素直に話してくれるかは難しいけど」

「東雲は、復讐のために強くなりたかったんですね」

「、、、、、」

「この前言ったでしょう。
 復讐のためだけに強くなりたいなら
 少し悲しいって」

「青藍、もうそれくらいにして」

「敵は私だった。
 憎い相手を目の前にして、機会を待ってた」

これ以上は青藍が追い詰められる。

「青藍、まだ決まったわけじゃない。
 今、結論を出しちゃ駄目」

「でも!」

青藍は樹荊の腕をつかみ返す。

「これからだってそうです。
 個人の命に関わるような月詠がでたら
 私はどう伝えればいいの?人の命を絶てって
 そんなことを頼まなければいけないんですか?」

「、、、、、それをしないですむ世界なら一番いい。
 だけど通らない時もある。現実っていえば、これが現実だろうね」

「、、、、、」

そう、これが現実。

綺麗ごとだけで国が動くはずは無い。

理屈ではわかっているが
目の前に突きつけられると割り切れなかった。

だが逆を言えば、影のどす黒い部分を
冬牙と樹荊が引き受けていたということだ。

だから、自分は見ないですんでいた。

ならば、話さなければならない。冬牙とも。東雲とも。

「そうですね。国を動かすのなら必要なことかもしれない」

「青藍、だけど今は休んで」

「大丈夫」

樹荊はより強く、優しく青藍を包んだ。

この腕に、いつも守られていたのだ。

「自分が思うよりも神経はまいってるよ。
 無理にでもいいから、少し横になってな」

「、、、、、わかりました。
 東雲は、いきなり処刑にはなりませんよね」

「勿論。そんなことさせない、約束する。
 少し冬牙と話してくるけど、一人で大丈夫かい」

「ええ」

「また来るよ。部屋にいてね」

「、、、、はい」

返事を確かめ、樹荊は部屋を出た。

「東雲と、、、、話したい。ごめんなさい、樹荊」

足音が遠ざかるのを待って牢へと向かった。


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