月詠


青藍、樹荊、冬牙。それぞれに、ぎこちなさを抱え迎えた朝。

いつもにように月詠を終え自室に向かっていた青藍は、途中東雲と会った。

「おはようございます」

「おはよう、あ、聞きたいことがあるんです。少しいいですか」

「私にですか」

「ええ。部屋のほうに」

「はい」

あまり他には聞かれないほうがいいだろうと、足早に引き上げた。


「何でございましょう」

「この前の、羽百合の花のことです」

「、、、、、」

「あの花は、どこでも見られる花ですか?
 それとも、生息地はある程度限定されるもの?」

羽百合の名を聞いて、冬牙は何かを考えていた。

だから花について知ることができれば
その欠片でもわかるかもしれないと思ったのだ。

「西方の山間の特産です。桂の辺りに」

「桂、、、東雲の故郷なんですか?」

「宮に入る前に、住んでおりました」

「冬牙は桂に思うところがあるのかな、、、。
 冬牙の口からは聞かない場所だけれど」

「月詠様は、何も思われないのですか」

「え、、、、、」

つい今しがたとはうって変わり
東雲は険しい表情で青藍を見ていた。

「桂の名など、気に止めるほどのことはないと」

「、、、、何を言っているんですか?東雲!?」

懐から出したのは小刀。

何故東雲がそれを向けてくるのか、思い当たることなどない。

「どうして、、、、、私が何を」

「何をだと?
 お前の月詠で何人の命が失われたと思っているんだ。
 いや、桂のことを忘れているくらいだ。
 何とも思っていないんだろうな」

「桂、、、人が死んだ?」

人の命を奪うような月詠など覚えはなかった。

「知らない。そんな月詠を出したことなど」

振りかざしてきた東雲を、ぎりぎりでかわす。

「教えてください。何があったんですか」

「白々しい。お前が出した月詠だ。
 自分が一番わかってるだろう」

「本当に、本当に覚えが−」

剣先が掠める。

「今更どう言おうが帰ってくるわけじゃない。
 ならばせめて、己の命であがなうんだな」

「東雲、、、、」

東雲は本気だった。

話すのは無理だと判断し、青藍は花台にかけよると
花瓶を東雲の足元に投げつけた。

そちらに気が向いた隙に壁際の紐を引く。と

「待て!」

壁の向こうに姿が消えた。

追おうとするが、すでに閉じた扉はこちら側から動かせない。

「隠し扉、、、、万が一の時の逃げ道か」

ガラガラとけたたましく鈴が鳴る。

人が集まる前にと、東雲は急いで部屋を出た。が

「そこまでだ」

冬牙が道を塞ぐ。

「東雲、、、、どうして」

逆方向には樹荊。更に兵が集まった。

「手際がいいな。これが国の双璧か」

「無駄口はいい。捕らえろ」

抵抗することなく、静かに縄を受けた。

「樹荊、月詠様を頼む。連れて来い」

東雲を引きつれ、冬牙は離れた。

そんな冬牙に一つの疑問が浮かぶ。

「まさか、、、、わかってた?」

『東雲は警戒したほうがいい』

そう言ったのは昨日だ。

これではまるで、この状況を予測していたかのよう。

だが今は青藍が先と、部屋に入った。


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