世界樹


近づける瀬戸際の所に荷台を置き、その先は歩きで進んだ。

「よく一人で戻ってきたな」

「スティールさんとヴィセさんは僕を信じてくれた。
 だから、絶対レグルスさんを連れてくるって2人と約束したんだ」

(強くなったな、サージュ)

子供の足では険しいと思える道を懸命に進んだ。

そして、レグルスの目に天を突き抜ける巨大な樹が映った。


「あれが世界樹か」

「うん。スティールさん」

ヴィセを守るように、スティールがいた。

「レグルスさん、来てくれたよ」

「大丈夫か」

「まあな。サージュは」

「僕も大丈夫」

レグルスは穏やかに眠るヴィセを見つめる。

「粗方はサージュから聞いた。
 ようやく肩の荷が下りたんだろう」

「いつからあんな思いを抱えていたんだか」

「最後は命がけで世界を守ってくれた。
 今度は、生きてる僕たちが守らないとね」

「ああ」

「戻るぞ。長居は無用だ」

「まさかとは思うが
 体1つでここにきたわけじゃないよな」

そこまでの考えなしだとは思いたくないが
若干の不安を覗かせながら訊いた。

レグルスは真顔で答える。

「とにかく急いだからな」

「本当に、何も考えないで来たのか?」

「あ、あのレグルスさん」

「ここまで来てもらって
 注文をつけられる立場じゃないが、、、、はあ」

肩を落としたスティールに対し
レグルスは小さく肩で笑っていた。

「レグルスさん、からかわないでよ」

「何、、、」

「嘘だ。近づける所まで荷台を運んである」

「お前な」

「日が落ちる前に
 森は抜けたほうがいい。行くぞ」

「覚えてろよ」

横を向いたスティールは小さく呟いた。

「何か言ったか」

「いや、別に」

(何だか、、、、スティールさんとレグルスさんて)

この2人は、案外いいコンビかもしれない。

サージュはふと思う。

「何考えてるんだ、サージュ」

「え、ううん。何でもない。行こう」

最後に世界樹を見上げ、サージュ達は森を後にした。








街へ戻ってからも慌ただしかった。

レグルスはあちこちで状況説明に追われ
サージュとスティールは掃除と後片付けに回った。

シャワーを浴び、喉を潤して
よううやく顔を合わせた頃には、月が顔を覗かせていた。

「さすがに疲れたな」

「足ぱんぱん。いたっ、、、」

「今夜は冷やしておいたほうがいいな。
 後で何か見つくろっておこう」

「ありがとう」

「ヴァイスの証は残ってるのか?」

「いや、いつの間にか消えてたよ」

シャワーを浴びようとして
消えていることに気が付いた。

自分が最後のヴァイス。

いつか、世界樹とヴァイスは遠い昔の
おとぎ話になるのだろう。

「さて、戻って寝るか」

「戻るって」

「牢に決まってるだろう」

「え、、、あ」

「この部屋にいるのは
 ヴァイスとしての迎えが来るまで。
 その必要が無くなれば、私は囚人の一人だ」

「そう、、、だよね。でも」

短時間でいろいろありすぎて
スティールが囚人であることを忘れていた。

理屈から言えばその通りだ。

この一件で無罪放免とはいかないだろう。

だが、自分同様スティールも疲労を溜めているはず。

せめて2,3日は冷たい塀に囲まれるのではなく
ベットとソファで休ませてもらえないだろうか。

「あ、あの、レグルスさん、もう少しここじゃ駄目?」

「サージュいいよ。ヴァイスだったからって
 待遇を変えてもらいたわけじゃない」

「でも、あそこじゃ休むなんて無理だよ」

「大丈夫だって。体は丈夫なほうだし。
 それに、レグルスの独断で決めることでもないだろう。
 あまり融通がききそうにもないしな」

最後の一言は、少しばかりの皮肉のつもりだった。

すると

「独房がいいなら、取り消すが」

「何、、、、」

「上に許可は取った。
 疲労も溜まっているだろうし
 2,3日はこの部屋でもいいかと思ってる。
 戻りたいなら、本人が望んでいると」

「ちょっと待て。嘘だ、冗談」

「私を負かそうなど、10年早い」

「、、、、、」

「サージュも、早く休めよ」

「うん」

鮮やかな切り返しをして、レグルスは部屋をでた。










「絶対、いつか負かしてやる」

「やめておいたほうがいいと思うよ」

「確かに隙は少ないだろうが、一分も無いわけじゃ」

「周りの人たち言ってる。
 本気で怒らせたら、死にに行くようなものだって」

「、、、、、」

「冗談には聞こえなかったけど」

「、、、、考え直すか」

助かった命だ。

スティールとて惜しい。

「じゃあ、僕も戻るね。お休みなさい」

「あ、サージュ」

立ったサージュを呼びとめた。

「疲れてるとは思うけど、もう少しいいか」

「うん、いいけど」

もう一度ソファーに戻る。

「どうしたの」

「ここを出たら、一緒に暮さないか」

「え、、、、」

「仕事を見つけて
 先の見通しが立ったら迎えに来る」

ここから連れ出したかった。

レグルス達が気に掛けているとはいえ
ここでの仕事を続けさせたくない。

しかし、サージュは頷かなかった。

戦争孤児は自分だけではない。

自分よりも小さな子供が
大勢働き手になっている。

「僕はここが嫌とかないから大丈夫。
 それに、戦争孤児になったのは
 僕だけじゃないもの。他にもたくさん」

「孤児になった全員を引き取るのは無理だ。
 なら、今目の前にいる一人を考えたい。
 どうかな」

(スティールさん、、、、どうして)

スティールがここにきた理由を、まだ知らない。

けれど、それは己の欲求を満たす為ではなく
きっと誰かのためなのだと思う。

「スティールさんは、どうしてここに来たの。
 そんな風に言ってくれる人なのに」

「なんだ、誰からも聞いてないのか」

「うん。聞きそびれちゃって」

「そうだな、サージュには話しておくか」

昔を思い出すスティールの胸に
どこかサージュと似た面影が過った。







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