世界樹


遥かな昔。

人は自然そのものを神と呼び、敬い生きていました。

山や川の恵みに感謝し、森を守り、決して踏み込んではいけない場所を保った。

けれど、人は知恵をつけ技術を学び発展させた。

森を切り開き、山を崩し、川を埋めた。

世界樹は、この森で最も古い命です。

ある時人は、世界樹もろともこの森を切り開こうとした。

けれどそれは出来ませんでした。

入りはしたものの、天候が荒れまた獣に追われ、道に迷い。

ようやく、たった一人が世界樹に辿りつきました。

仲間を失った悔しさか、あるいは自分だけが生き残った後ろめたさだったのか
その男は世界樹に刃を向けた。

その時世界樹の声が、人の行いに耐えきれなくなった命の声が聞こえたんです。

「これ以上人の行いを見過ごすことはできない。
 我らの怒りを、その身で思い知れ」と。

そして体には消えない証が残った。この、ヴァイスの証が。

異常気象や凶作が続くと、町の中にヴァイスの証をもった者が現れる。

その人間をここに連れてくることが、初代ヴァイスの永遠の役目となったんです。


「、、、こう訊きましたよね。
 今までのヴァイスはお前が殺したのかと。
 全ての元凶は私です。私が死なせてしまった。
 償い、、きれるもので、、、は、、、」

「わかった。もういい。喋るな」

「本当に、、、すみませんでした」

「でも、僕たちはあなたに助けられた。
 世界樹も許してくれたよ」

「、、、、世界は」

「世界樹は未来を僕たちに預けてくれた。
 あなたは、この世界を守ってくれたんだ」

「よかった、、、、」

大きく息を吐き出したヴィセは
スティールに体を預けた。

「ヴィセさん」

「一人の力など、大海の一滴と同じ。
 小さなものです。
 だけど、あなたの言ったとおり
 人は喧嘩をしても仲直りできる」

「うん」

「どうか、、、未来を、お願い、、し、ま、、す」

最後に穏やかな微笑みを浮かべ
初代ヴァイス=ヴィセは、その役目を終えた。

「長かったろう。ゆっくり休むといい」

「スティールさん、ヴィセさんを町に戻せる?」

「このままにしたくはないが」

とはいえ、すでに息を引き取った亡骸だ。

かかえるといっても、一人ではしんどい。

「もう一人くらいいればな、、、、 かといってここじゃ」

はたして人を捕まえられるだろうか。

かかえて行くしかないと諦めた時
サージュがこう言った。

「レグルスさん、呼んで来る」

「町まで一人で戻るっていうのか?」

「だって、僕は手伝えないし
 スティールさんだけじゃ無理だよ。
 ヴィセさん、町に戻してちゃんと埋葬してあげたい」

「気持ちはわかるし、私だって同じだ。だけど」

「この時間なら、まだ明るいうちに戻れるよ。
 大丈夫、きっとレグルスさん連れてくるから」

「サージュ」

「お願い、行かせて」

「、、、、、」

行くなと言っても、走りだされたらそれまでだ。

ヴィセを残し追いかけることも
自分は出来ないだろう。

「、、、、わかった。私とヴィセ、信じて預けるからな」

「うん。ヴィセさん、少しだけ待ってて。絶対戻るから」

ヴィセと手を重ね、サージュは来た道を戻った。










爪の先でテーブルを叩く音が止まらない。

真っ先にサージュに声をかけていればと
レグルスは後悔しきりだった。

スティールを見送り部屋に戻った時には
サージュの姿はなかった。

急いで捜索命令を出したが
かんばしい報告は上がってこない。

「無事でいてくれ」

何度目かの呟きと同時に、扉が開いた。

「レグルスさん!」

「サージュ、、、何処にいたんだ。無事か」

レグルスは膝を折り、素早く状態を見る。

サージュは土埃をかぶり、小さな擦り傷を複数作っていた。

「レグルスさん、一緒に来て」

「話は後だ。先に着替えと消毒くらいはしないと」

「約束したんだ。レグルスさんを連れてくるって。
 急がないと、2人とも戻ってこれない」

「2人って、、、スティールと、あのヴィセのことか?」

「お願い、2人を助けて」

必死なのはわかるが、如何せん要領を得ない。

レグルスはゆっくりと話す。

「助けるにしても、状況がわかないと何もできない。
 サージュ、必要なことだけでいいから説明してくれ」

自分を見守ってくれるいつもの眼差しに
サージュは落ち着きを取り戻し、今までの事を話した。

「あのヴィセが始まりのヴァイスか」

「信じられないかもしれないけど」

「信じるさ。サージュが嘘をつく必要なんてないだろう」

それに、サージュのことは一番近くで見てきたつもりだ。

「少しだけ待ってくれ。それなりの準備も必要だからな」

「うん。ありがとう」

レグルスは部下を呼んだ。

「お呼びでしょうか」

「大人2人乗せられる荷台と
 それを引けるだけの馬を用意してくれ」

「え、、、あの、何を」

「説明は後でする。緊急事態だ。急げ」

「は、はい!」

よほどのことがない限り聞かない言葉に
部下は部屋を飛び出した。

「行けるところまでは馬と荷台を使おう。
 それから、用意ができるまで消毒だけはしておこう。
 雑菌が入ったら、後が怖いからな」

「わかりました」

願わくば、サージュにはここで待っていてほしいが
それはしたくないと言うだろう。

スティールとヴィセへの約束でもあるのなら。

ほどなく先ほどの部下が戻り、2人は世界樹へと急いだ。







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