世界樹


「金が欲しかった。どうしても」

「何のために」

「弟が難しい病気を患ってしまってね。
 治療には、とんでもない額の金が必要だった。
 そんな時、仕事の取引先から持ちかけられたんだ。
 金と引き替えに手を貸せって」

「その時から、違法だってわかってたの?」

「実際動き始めて、すぐにわかった。
 それでも、どうしても助けたかった」

正論を言う事は出来る。

不正を働いて手にした金など
病気が治っても、喜びはしないと。

けれど、スティールの想いを否定することができようか。

「今、弟さんはどうしてるんですか」

「間に合わなかった。ここに来る前に」

「スティールさんの親は」

「生きてるが、縁を切るって言われてるから
 いないのと同じだろう」

「でも、弟さんを助けたかった気持ちは
 認めてくれるんじゃないですか?
 結果は、手放しで喜べないかもしれないけど」

「助けられなかった。何もできなかったんだ」

「生きてる。あなたは」

「サージュ、、、、」

力強い声が届く。

「諦めないでください。
 生きてさえいれば、何度でも始められます。
 弟さんは帰ってこないけど
 スティールさんが生きて欲しいって望んだように
 もう一度始めて星って願ってる。きっと」

「大切な人を失ったのは、サージュも同じだったな」

「少しはわかるつもりです。
 スティールさんの悔しさも」

甘えたい気持ちを抑えてきた心は
誰にも見せない涙を流し続けてきたのかもしれない。

レグルスとて、出来ることは精一杯やっているだろうが
立場上、仕事を抜きにするのは難しいだろう。

「生きるよ、弟の分まで。
 ここを出たらまず墓参りをして親とも話してみる」

「うん、喜んでくれるよ」

「サージュも、さっきの話考えてみてくれ」

「、、、、、」

「かっこいいことを言いたいんじゃない。
 ただ、レグルスも精一杯だとは思うが
 働くにしても、いい環境とは思えないんだ」

ここを出たら何か変わるだろうか。

ここに来る前の生活に戻れはしない。

レグルスや他の大人たちが
自分を気遣ってくれるのは本当だし
不満があるわけでもない。

だがもし何かが変わるのなら。

そして、ここで働くことが
レグルスの心配になっているのなら
それも1つの方法だろうか。

人は何度でもやり直せる。

しかし、その為にきっかけは必要。

スティールとの出会いがきっかけになるのなら。

「少し、時間がほしい」

「そうだな。1日2日で監獄を出るわけじゃない。
 将来がかかってることだ。急がせるつもりはないよ」

最終的にサージュが頷くかはわからない。

けれど、これがサージュにとって
いい方向に変わるきっかけであれば
スティールも嬉しく思う。

「スティールさん、今夜はここで寝てもいい」

「ああ。もちろん。ベットだって十分な広さだろう」

「ありがとう。用意してくるから待ってて」

嬉しそうな笑顔を見せて、サージュは部屋を出た。










2人でベットに並ぶ。

「スティールさん」

「ん?」

「スティールさんに会えてよかった」

「そうか。私もだ」

「あったかいや、、、お休みなさい」

「お休み」

手を重ね、そっと包む。

親に抱かれ安心した子供のように
目を閉じたサージュの体からすっと力が抜けた。

(本当によくやってくれた。ありがとう)

今夜の夢が優しいそれであるように。

小さな手にある未来が
サージュに明るい光を投げるものであるよう願いながら。

そんな想いをこめて
スティールはサージュの寝顔を見守った。


そして釈放の日。

「今日か」

「ああ」

模範囚であったスティールは
予定よりも早く刑期を終え、自由の身となった。

「戻ってくるなよ」

「そのつもりだ。
 ところで、サージュはどうしてるんだ。
 今日はまだ見てないんだが」

「そろそろ来るだろう。時間は知らせてある」

言葉通り、ほどなくサージュが部屋に入った。

「ごめんなさい。遅くなっちゃった」

「いや、今終わったところだ」

サージュはスティールに向き直る。

「本当に世話になったな。ありがとう」

「いいえ」

「それで、あの話は考えてくれたかい」

「、、、、、」

ここを出たら一緒に暮らしたいという申し出に
まだ返事をしていなかった。

スティールも催促はせず
まずは刑期を勤め上げることに専念した。

もし断りの返答ならば
無理を押しつけるつもりはない。

「正直に答えていいよ。無理はさせない」

「僕は、、、、」

答えの出ないサージュに代わりに
レグルスの声が入った。その言葉は。

「最後を看取るだけの覚悟があるか」

「何、、、、」

意味を飲み込むのに数十秒。

スティールは信じられずにサージュを見つめた。


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