世界樹


「スティールさん、、、、」

しがみついたサージュは涙が止まらなかった。

「そんなに泣くな。まだ結末は決まってない」

「だけど、、、、でも」

信じようとすればするほど、不安が大きくなる。

世界が滅べばいいとは思わない。

けれど、スティール一人の命が
軽いのかと問われればそれも違う。

「世界は大事だけど
 スティールさんの命も大切だよ」

「ありがとう。私のために真剣に泣いてくれる
 相手に会ったのは久しぶりだ」

帰ってきたいとは思うが、叶わない可能性は
スティールとて認識している。

それでも、さよならとは言いたくない。

「サージュが待ってる。それはきっと、私の助けになるよ」

「スティールさん」

「帰ってくる。また会える」

スティールは言いきった。

それが自分を不安にさせないようにとの
スティールの想いやりだと、サージュも気づく。

未来を信じるために、サージュは涙をふいた。

「わかった、、、、行ってらっしゃい」

「じゃあな」

乗せた手で髪をくしゃりとなで、スティールは部屋を出た。


サージュはベランダに出た。

スティールを待つヴィセの姿が見える。

「あ、、、、これ」

サージュの目に留まったのは排水管だった。

壁に固定するための金具が、足場になりそうな気がする。

「、、、、大丈夫。行ける」

自分に言い聞かせ、サージュは手を伸ばした。


ざわめく町を抜け郊外へ。

ヴィセの後ろを歩き続けた。

「どこまで行くんだ」

「もう少しです」

ヴィセは森に入った。

深い緑に包まれた森を歩き、とうとう世界樹が姿を見せた。

「これが世界樹」

「はい」

周りの木々を従えるかのように
一際高く天を突き抜けている。

「本当にこの樹が世界の支えなのか?
 この樹がなければ、世界は潰れると」

「、、、、ええ。人とこの世界を生かすか否かは
 世界樹が決めることです」

「ヴァイスは終焉の立会人だろう。
 今までのヴァイスはどうなった。
 ヴァイスが行方知れずになり、世界は続いている。
 お前が殺したのか?人柱だという噂の通りなのか?」

「選んだのです。ヴァイスが」

「自分から人柱になることを?」

思い出すようにヴィセの瞳が揺らいだ。

「世界樹は選ばせました。
 己を犠牲にして世界を救うか、世界を滅ぼすか。
 今までのヴァイスは世界を、大切な人を守った。
 その結果が今です」

「、、、、、」

「ヴァイス、あなたは」

スティールの答えは決まっている。

「どちらも選ぶつもりはない」

「ヴァイス、、、、」

「世界を支えているのは、ここで生きてる命全てだ。
 人の行いで世界が滅ぶのなら自業自得だろう。
 だが少なくとも、世界樹だけが決めることじゃない」

「あなたは、、、、そうですか。
 ようやく私の待っていヴァイスが」

「何、、、、」

「そこまでだ」

別の声が割って入った。

「誰だ」

「目の前にいるであろう。ヴァイスよ」

「、、、、世界樹」

「もう終わりにしてください。
 ヴァイスの命を求めるのなら、私でいいでしょう」

「ならぬ。そなたには永遠の罰を与えたのだ」

「どういう意味だ」

「選べ、ヴァイスよ。世界の終焉か己の終焉か」

「待って!」

「サージュ?」

更にサージュが追いついた。

「どうして来たんだ!戻れ!」

「ごめん、スティールさん。
 どうしても、待つだけなんて出来なかったんだ」

「サージュ」

サージュは審判の樹を見上げた。

「どうしても、これしかないんですか?
 人は確かに、間違うこともあるし喧嘩もする。
 だけど、喧嘩しても仲直りできるよ」

「人は愚かだ。我々を殺しておきながら
 己の命で大切な人を守るだと?
 滅びよ。当然の報いだ」

地を割ったつたが、勢いをつけてサージュに向かう。

「サージュ!」

自分に差し出された手を掴み目を閉じた。

そして

「つ、、、ぐぁ」

「、、、、ヴィセ?おい!」

つたは、2人の前に立ったヴィセを捕らえた。

「あ、、、しっかりして」

「ヴィセ、お前」

激痛に震えながら、ヴィセは世界樹に訴えた。

「確かに、、、、人は愚かです。
 山を崩すのは一瞬。森を作ろうと思えば
 気の遠くなるような時間を必要とする。
 けれど、もう一度信じて。
 やり直す機会を与えて下さい」

「ヴィセ、、、、」

「ヴァイスの命で代償となるのなら、私を」

「ヴィセさん、、、」

「ヴィセ、、、グ、、、滅びよ、、、滅びるがいい!」

一際大きな咆哮が響き、大地が揺れた。

「く、動くなよ。サージュ」

「お願い、やめて!」

「私が、、、、あの時、、、ごめんなさい、、、ご、、」

振動はヴィセの痛みを増幅させる。

その中で、ヴィセは謝り続けた。

滅びるしかないのか。このまま。

「(だめ、、、違う)スティールさん。ヴィセさんお願い」

「サージュ?何する気だ!」

サージュは世界樹に近づいた。

説明はできない。

ただ、この揺れる大地そのものが
世界樹の悲しみのように胸を締め付ける。

「本当にいいの?ヴィセさんあんなに苦しいのに
 苦しいまま終わりにして、本当にいいんですか」

「ヴィ、、、セ、、、」

「僕一人じゃ何も変わらないかもしれない。
 だけど、川の水も森に住む生き物も
 綺麗に咲く花も大切にします。
 だから、許してあげてください。お願いします」

「、、、、、」

すると、少しづつ揺れがおさり始めた。

「人はいずれ、己の手で世界を滅ぼす。
 ならば我が手を出すこともないか」

「じゃあ、、、」

「ヴィセを頼む」

揺れが止まった。

今までが嘘のように、静かな風が抜ける。

「許してくれるんですね。ありがとう」

世界樹は答えなかった。

サージュはヴィセの元に駆け戻った。

「ヴィセさん、もう大丈夫だよ」

「最後に、、、、聞いてください」

「だめ、諦めないで」

「しっかりしろ」

「もう、、、無理です。だから知っておいて。
 最後の、、、ヴァイス」

ヴィセは静かに告白を始めた。


































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