Midnight Game


言葉の通り、小高い丘には気持のいい風が吹いていた。

真昼にこんな風を受けたのは何年ぶりだろう。

「陽の光はこんなに明るいものなんだな」

「そうですよ。明るくて、あったかい」

「お前、私に笑ってほしいって言ったな」

「、、、、、はい」

「自分の周りで、大切な人が次々に命を落とす。
 それでも笑えるか?」

「ディーレ様、、、、」

驚きと、戸惑い。

緩やかだった風が、唸りながら駆け抜けた。

「昔からだ。飼っていた犬、好きになった女性。
 親までも、私の前から姿を消した」

「でも、、、ディーレ様のせいでは」

「私が愛したものはいなくなる。
 実際、己の欲と快楽の為だけに生きたら
 ぴたりと止まったよ」

「そんな、、、、」

だが、これで寂しそうな瞳の訳もわかった。

偶然だと笑い飛ばすには、あまりにも重い。

「だから紛らわせた。一夜の幻を金で買った。
 ロゼリア、これで最後だ。私に構うな」

その瞳は、初めて会った時よりも辛そうで寂しそうで。

「私を心配してくださるんですか?」

「これ以上死なせたくない。私は呪われている」

「でしたら、私がその呪いを終わらせます」

ロゼリアの瞳は、真っ直ぐ強くディーレを見た。

「馬鹿を言うな。お前まで」

「愛しただけで死なせるなんて
 ディーレ様のせいだなんて信じません。
 ですからどうか、ご自分を信じてください」

「ロゼリア、、、、」

ロゼリアはディーレの手を取った。

心は、どれほどの涙を流してきたのだろう。

「今迄そんな辛い心を抱えていたなんて、、、、
 話して下さったのが私であること、嬉しく思います」

ディーレはロゼリアを抱きしめた。

「いいのか?」

「2人で乗り越えてみせましょう。ディーレ様」

今度こそ。

ディーレの胸に、そんな淡い願いが生まれていた。

 






「今度こそ、、、、だが、もしも」

呪いなど信じたくはない。だが、もしも。

今まで以上に、心は揺れた。

「今夜は、お出かけにならないのですか?」

「何、、、、誰だ!」

影が揺れた。いつの間にか部屋には男がいた。

「何処から、、、、」

「人を呼んでも無駄ですよ。
 今の私は、あなたにしか見えないのだから」

「、、、、悪、、魔」

「嫌な言い方をしてくれる。
 私は望みを叶えただけだというのに」

「望みだと」

「名はオルガノ。お見知り置きを」

オルガノは芝居がかった礼をした。

「ロゼリアという娘を、愛し始めていますね」

「、、、、、」

「待っていたんですよ。あなたが誰かを愛するのを。
 近頃は一夜の幻を抱くばかりだったから」

「な、、、、、」

訳がわからなかった。

この男が言う望みとは何のことだろう。

自分が誰かを愛することを待っていた。

その言葉に、ディーレは一つ思い当った。

「まさか、、、私の呪いは」

「望んだのは、あなたの両親です」

「お前が、、、、お前が殺したのか!」

掴みかかったディーレに、余裕の笑みが返った。

「あなたは、生まれてすぐに重い病にかかった。
 ご両親は嘆き悲しみ、私を呼んだのです」

「、、、、、」

「そして願った。生かしてほしいとね」

「、、、、だから死んだ?」

「これは契約ですよ。
 終わるはずだった命を長引かせるのだから
 それなりの代価は必要です。
 あなたが生きるための条件とは、誰も愛さないこと」

少しづつ見えてきた。

己にかかっている呪いの正体が。

「誰かを愛したその時は、、、、」

「嘘だ、、、、そんな」

「嘘ではありませんよ。
 今までのことを思えば、おわかりでしょう?」

「嘘だ、、、、嘘だ!」

座り込んだディーレに、オルガノは容赦なかった。

「人の願いは我儘で残酷なもの。
 我々を呼ぶ人間は後を絶ちません。
 まあ、こちらとしては歓迎しますが」

「ロゼリアは、、、、ロゼリアにまで手を出すつもりか」

「愛を告げたその時には」

「、、、、愛さなければいいんだな」

だが、胸の内を見透かしたかのようにオルガノは笑う。

「できますか?突き放すことが。
 あなたの呪いを知ってなお、手を差し伸べた人を?」

「人を、、、人の心を何だと」

「人が私を呼ぶのです」

バサリとマントが翻る。

「己を欺き欲望と快楽を求めるか
 死を運ぶとわかってなお愛するかは、あなたの自由。
 恨むなら、ご両親を恨みなさい」

「黙れ、、、、」

「ああそう。
 言っておきますが、この契約がある限り
 自ら命を断とうとしても無駄ですよ。
 同じように、あなたに私は殺せない」

「出ていけ、、、、失せろ!」

愛して求めれば、自分が与えるものは死。

突きつけれられた現実が
ディーレを絶望の底へと落としていく。

「ふ、、、、はは、、、嘆き悲しむがいい!」

愉快そうに笑い、オルガノは消えた。

「ロゼリア、、、、君まで」

淡い灯は、夜に飲み込まれ消えた。




 








その夜以降、ディーレは以前よりも荒れた。

誰も近づけず酒と女を求めた。ロゼリア以外の影を。

今度こそ愛想を尽かすだろうと思った。だが

「ディーレ様、よろしいですか」

「酒を持ってこいと言ったはずだぞ」

「、、、、いえ、できません」

「逆らうつもりか」

すでにかなりの酒が入っている。なのに酔えない。

「従うつもりがないなら出ていけ」

「教えてください。何があったんですか」

「所詮これだけの男だった。そう、、、それだけだ」

何もかも、どうでもよかった。だがロゼリアは守りたい。

「私に近づくな。頼む、お前だけは」

「呪いなど恐れません」

「本当なんだ。本当に呪われていたんだ!」

投げたグラスが音をたてて砕けた。

心ごと砕け散ってしまえば楽になれるのに。

「ディーレ様、お願いです。お一人で苦しまないで」 

「、、、、、」

ロゼリアはディーレをそっと抱きしめた。

「教えてください、何があったのか。
 呪われているというのなら、呪いを解く方法を
 2人で考えてはいけませんか」

「お前は、、、、どうして」

何故ここまで強く、優しくなれるのだろう。

「強くなります。
 ディーレ様のお心を支えられるように。だから」

「どうして、、、、強い」

「信じたいんです。
 貧しくても笑ってくれた父さんと母さんを」

愛しい。愛している。

だがそれは、決して告げられない想い。

「その強さを、、、、わけてくれ」

どちらからともなく唇が重なった。

この夜、ディーレはロゼリアを抱いた。

 


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