Midnight Game


それはいつからだったろう

私が愛したものは全て消える

初めて飼った犬 大好きだった女の子

父と母

失うなら 消えてしまうなら

誰も愛するな

求めるのは欲望と快楽

明けることのない夜へ


一夜の幻を求め男たちが集う場所。

歓楽街の中でも極上と謳われる館に
毎夜大金を携えて通う男がいた。

美しい青年実業家に決まった相手はおらず
その日の気分で抱く女は違う。

今夜は、店で一番売れている娘が相手だった。

娘はいつものように薄絹を落としソファーにもたれた。

乗り上げたディーレは娘の肌に指を滑らせ
口づけを重ねていく。

「ねぇ、、、あなた、どうしてここに通うの?」

「聞いてどうする」

「他の女たちも言ってるわ。
 あなたの笑った顔見たことない。
 何を考えているのか、わからないって」

「金を払う男が来れば、文句はないだろう」

「でも、せっかくのお得意様だもの。楽しんで、ん、、、」

「楽しんでるさ、十分。極上の快楽をな」

衣擦れの音だけが聞こえた。


「ディーレ様、新しく入りましたロゼリアです」

その日、新しいメイドが入った。

「ロゼリアです。よろしくお願いします」

ロゼリアもディーレの噂は知っている。

やり手だが、娼館通いの道楽者だと。

女好きで、だらしのない男だと思っていた。

「仕事ができさえすれば文句はない。あとは好きにしろ」

(何だろう、、、、寂しそう?)

それが第一印象だった。

雨の中震えている迷子のように。

「ロゼリア、ディーレ様にお茶を」

案内をしてきた先輩が下がり
ロゼリアはお茶の支度を始めた。

「物好きだな」

「え、、、、あの」

ロゼリアを見ないまま、ぽつりと言った。

「何もここじゃなくてもいいだろうに」

「、、、、、、」

「私の噂くらい、聞いたことはあるだろう。
 娼館に通って、その日の気分で女を抱く。そんな男だ」

自分を突き放して見ている。いや、憎んでいるのだろうか。

吐き捨てるような言葉は、己に向ける剣のよう。

「、、、好きになった方はおられなかったのですか?」

「、、、何だと」

声音が変わる。怒らせてしまったか。

「い、、、いえ、ディーレ様お綺麗ですし
 その、、真剣にお付き合いされた方も」

「、、、、、」

「す、、、すみません」

過ぎたことと、ロゼリアは慌てて頭を下げた。

「そのお喋りな口を塞いでやろうか」

「え、、、あ、、や」

抱きかかえると口づけた。深く。

「ん、、、んっ、、、、」

振りほどこうとするが、ディーレはきつく締め付ける。

「こんな男だぞ」

言葉にならない。こんな口付けは初めてで。

「私には死神が憑いている。
 死にたくなかったら、無駄口は叩くな」

動けないロゼリアを残し、ディーレは部屋を出た。

 


ロゼリアはそれからしばらく
必要以上にディーレに近づこうとしなかった。

このまま避けるようになるだろう。

そう思っていたのだが。

「おはようございます」

どういうわけか
目が覚めて最初に会うのはロゼリアだった。

そして笑顔が向けられた。

「嫌になったんじゃないのか」

「驚きました。でも、、、落ち着きました」

あの口づけの時、驚きはしたが怖くはなかった。

ディーレは笑わない。全てを拒むように。

だが思う。寂しいのだと。

本当は愛したいのではないかと。

「新しいリーフが出回る時期なんですよ。
 香りのいいお茶を仕入れてもらって」

「かまうなと言ったはずだ」

「ディーレ様、、、、」

ディーレは苛立った。

自分に近づく者を愛してしまったら。

また失う。それが怖い。

だが、ロゼリアは引かなかった。

「私、、、笑ってほしいんです」

「、、、、、」

「家は貧乏で、両親は働きづめでした。
 でも、私のことが大好きだって笑ってくれた。
 、、、、、もういないけれど」

「そう、結局は金があれば」

「いいえ。そうは思いません」

「、、、、、」

「確かに、お金はあって困るものじゃない。
 だけど、父さんと母さんの笑顔を失うくらいなら」

「偽善、、、、いや、強がりか」

「せめてお酒の量を減らすだけでも」

ここまで食い下がってくる相手は初めてだった。

今までの使用人は皆、見て見ぬふりをしてきた。

裏では呆れて囁き合いながら。

「、、、、、二度と言うな」

ディーレは逃げるように背を向けた。



 



それからのロゼリアは、尚声をかけるようになった。

部屋に花を飾り、香りのいいお茶を選び。

ディーレの方が根負けした。

会話は少なかったが、構うなとは言わなくなった。

「ディーレ様。
 お仕事以外で趣味っておありなんですか?」

「別に」

「町のお祭りに足を向けられたことは」

「ない」

「晴れた日の、気持のいい丘とか」

「ない」

「、、、、、」

暖かな日だまりなど似合わないと思っている。

夜に揺らぐように、ただ流されて。

「私は、夜に揺れて流れるだけだ」

「、、、、今日、お休みですよね」

「だったら何だ」

「行ってみませんか?外」

「疲れる」

「夜十分お休みになればいいんですよ。
 絶対、気持のいい風が吹いてますから」

こう言い出したら、負けるのは自分だとわかっている。

ディーレは大きくため息をついた。

「一回だけだぞ」

「はい」

ロゼリアは、明るい笑顔を向けた。

望んでしまいそうになる。

けれどディーレは言い聞かせた。

愛した相手に死を運ぶ。それが自分だと。

「すぐに支度をします。待っててくださいね」

無論ロゼリアが知るはずもなく
ディーレの僅かな変化を素直に喜んだ。

2人は風の吹き抜ける丘へと出かけた。

 


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