Midnight Game


ディーレは、オルガノの来訪をロゼリアに話した。

ロゼリアは驚きはしたものの、否定はしなかった。

「ディーレ様のご両親も
 ディーレ様を助けたかっただけなのに」

「あいつの言った通りだ。
 人の願いは残酷で我儘だよ」

そして悲しい。

「私は永遠に縛られる」

「その契約、何か証は残っていないんですか?」

「証?」

「はい。その時のことが少しでもわかれば
 契約がなくてもディーレ様が生きられる手掛かりを
 見つけられるかもしれません」

「無茶を言うな。相手は人じゃない」

「でも、可能性があるのなら試してみたいんです」

この契約がなくとも生きられるなら、告げられる。

言葉を伝えることもできよう。

しかし相手を考えれば、それは危険すぎる。

「ロゼリア、気持は嬉しい。でも危険すぎるよ」

「、、、、、」

「言葉は告げられなくても
 私はこうして、ロゼリアの隣にいられればいい」

「私はディーレ様を解放してさしげたい」

「ロゼリア、、、、」

「お願いです。
 一度だけでいいから、何かやらせてください」

「本当に、どこまでも気が強いな」

「あ、、、、すみません」

だが、ディーレは微笑んだ。

「古い文章を洗い出してみよう。
 何かがあるとすれば、可能性は高い」

「ディーレ様、、、」

「ただし、本当に一度だけだ。いいな」

「はい。ありがとうございます」

希望の欠片を信じて、2人は書庫へ向かった。

 







重い扉を開けて中に入る。

「すごい量ですね」

「ああ、百年以上前からあるからな」

「そんなに。どこから手をつければ」

「私が生まれた頃の話だろう。そこから当たろう」

2人は手始めに、ディーレが生まれた年代に
書かれた文章を引っ張り出した。

そしてディーレと両親の名前が記されている物が
残っていないかを確かめていった。

被っている埃を払い、破損させないよう慎重に。

だが、どうしても手が止まった。

懐かしくもあり、苦しくもある思い出たちが
無言でディーレを責める。

そんな心中を察してか、ロゼリアの手が重なった。

「ディーレ様のせいじゃありません」

「、、、、ありがとう」


「どうして、、、、、」

「出てこなかったか、、、、」

懸命に作業を進めたが、らしき物は出てこなかった。

気がつけば陽が落ち始めている。

一日だけ。その約束が、ロゼリアの胸を締め付けた。

「ロゼリア、ありがとう」

「ディーレ様、、、、」

背中から、そっと抱きしめた。

「感謝しているよ。こんなに懸命になってくれて」

愛しているとは言えない。

告げられない想いを抱えていることが
これほど苦しいとは知らなかった。

「告げられない。告げれば君を死なせてしまう」

「何があっても、傍にいます」

悲しい告白を、2人は胸に刻み込んだ。


夜も更けた頃、ディーレは一人で書庫にいた。

「何か、、、、何かないのか」

諦めたくない。そう思い始めていた。

そして何よりも、あの時感じた
告げられない苦しさが忘れられなくて。

「私を愛したなら、だからこの契約を結んだのなら
 力を貸してくれ。父さん、母さん」

胸の前で十字を切り祈る。

ディーレは本を取った。未来をつかむ思いで。

「風、、、、」

椅子に着こうとして、ディーレは止まった。

閉め切ってあるはずの部屋に、風が入るだろうか。

「まさか、、、、」

感じたのはあの時の空気。

翻ったマントの向こうに、影はいた。

「オルガノ、、、、」

「悪足掻きはお止めなさい。
 そんな物、ありはしません」

「私の勝手だろう。邪魔をするな」

オルガノを見ずに読み進めた。

「諦めたらどうです。
 告げられない想いを抱くのは苦しいでしょう。
 絶望を認め、極上の女を抱くほうが楽ですよ」

「人の心をただの取引道具だと思うお前に
 何がわかるというんだ。
 愛しい、守りたい。この優しい感情が、ぐ!う、、、」

オルガノはテーブルを椅子代わりにすると
ディーレの腕をテーブルに打ちつけた。

軽く触れているだけのはずなのに
抑え込まれたように動かせない。

「つ、、、は、、な、、あぅ」

「愛が優しい?戯言を。
 その愛するという感情のせいで
 こんな思いをしているのに?」

「、、、、、あ、、、」

「何日か前に来たばかりのあんな小娘より
 あなたの事は、私がよく知っていますよ」

「時間の、、、長さじゃない、、、、。
 以上のものを、ロゼリアは」

「ふん」

「ぐ、、、うあっ、、、」

尋常ではない力で締め付けられる。

それでも、歯をくいしばって耐えた。

「骨の一本折れたぐらいで死にやしません。
 それとも、、、、試してみますか?」

「は、、、うっ、、、、」

「あの小娘を愛したのなら、言ってしまいなさい。
 それで楽になれるんですよ」

「誰が、、、、言う、、か、、」

「あなたが愛する人の名前は?」

その時だった。




 







「ディーレ様?いらっしゃるんですか?」

「ほう、、、、」

「来るな!」

「ディーレ様!?きゃあっ」

オルガノがロゼリアを捕らえた。

「初めてお目にかかります。オルガノと申します」

「あなたが、、、離して、嫌っ」

「ロゼリアを離せ」

「動かないでくださいね」

「、、、、何が望みなんだ」

「言ったはずです。
 私はあなたのご両親の望みを叶えただけだと。
 その結果を忠告もしましたよ。
 それでも、選んだのは人のほうなんですからね」

「どうしても言わせたいのか」

「ディーレ様、、、、」

オルガノは動かないだろう。名を口にするまでは。

ディーレを解放できるのは自分だけ。

結果が同じなら。命を奪われるなら名前を呼んでほしい。

愛する者としての名を。

「ディーレ様。名前を呼んでください」

「ロゼリア?」

「この男は、名を呼ぶまで離さないでしょう。ならば」

「知ったような事を」

「く、、、、ぅ」

「ロゼリア!」

「私の名前でディーレ様が解放されるなら
 私は、、、幸せです」

「お前を、、、、殺せと?できると思うのか」

「愛しています、、、、ディーレ様」

心のままに、清らかな涙が伝った。

「、、、、、わかった。名前を告げよう」

「そうこなくては」

「必ず告げる。だからロゼリアを離せ」

「そうですね。最後くらいは」

オルガノの手を離れたロゼリアは、ディーレに駆け寄った。

ディーレはロゼリアをしっかりと抱きしめた。

「ロゼリア、すまない」

「いいえ」

これが最後と口づけた。そしてオルガノを見据える。

「私が愛する者の名前だな」

「宣誓してください」

ディーレは一つ息をのむ。そして

「私が愛する者の名前。それはディーレだ」

「何、、、、」

「ディーレ様、何を」

「愛する女とは限らないのだろう。
 飼っていた犬も両親も、その契約で死んだのなら。
 それとも、自ら契約を違えるか?」

「お前、、、、よくも」

「でも、、、、そんなことをしたら」

「そのお嬢さんのほうがわかっているようですね」

「わかっているさ。私だって」

ディーレとて予想はついた。

これで契約は終わる。自らの命を最後に。

「ならば、、、愛する者の命をいただこう」

「うあ、、、がはっ、ぅ、、、、」

「ディーレ様!」

腕を掴まれた以上に強く、胸にのしかかった。

「そんな、、、嫌よ、、、。こんなの嫌です!」

「ロゼ、、、リ、、、」

「愛など、、、くだらん。
 しばしの余興をたのしませてもらいましょうか」

オルガノは、およそ不釣り合いな笑みで2人を見下ろした。

言葉が出なくなったディーレは
震えながらロゼリアの手を取った。

そして、告げた。愛していると。

「何だと、、、、。く、、、ここまできて」

指でロゼリアの手に書いたのだ。言葉ではなく。

「ディーレ様、、、、私も愛しています」

「やめろ!」

同じようにロゼリアも指で返した。その瞬間だった。




 



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