自室に戻り、ロシェルは鍵になるものを探した。あの絵に開けられた穴の位置がそうならば、鍵は指輪。

「何処だ、、、何処にある」

引き出しや棚はもちろん、部屋中をひっくり返した。

だが、そう簡単には見つからない。

「何処なんだ、、」

考えられるところは当たり尽くした。

この部屋に無いのなら、屋敷中を探さなくてはならない。

まして指輪でないのなら見当もつかなかった。

いっそ壊したほうが早いかもしれないが、中身が分からない状態で出来るはずもない。

倒れるようにソファーへと座り込む。と、ロシェルの目の前に最後の指輪があった。

「まさか、、、」

今自分がはめている指輪。それを外しくぼみにあてる。ぴたりと収まり、鍵が回った。

「はあ、、、、」

大きく息をつき蓋を開けた。

中にあったのは「調査報告書」と題された書類の束にロシェル宛の手紙。

そして小さな箱。

部屋もそのままに読み始める。陽はとうに暮れ、外は夜の闇に包まれていた。


「ここまでか」

目の前の書類を束ね一息入れる。

(それにしても、、何があったんだ)

自室に篭ったまま、食事も取らずに部屋から出てこない。誰も来させるなと、そう言われていてもこのままには出来なかった。

エドはロシェルの部屋へと向かった。


「ロシェル様、よろしですか」

返事はない。扉に手をかけてみると鍵はかかっていなかった。静かに部屋へと入る。

ロシェルはソファーにもたれたまま眠っていた。テーブルには書類の束と空になったボトル。

「ロシェル様、起きてください」

「、、、、エド、、、」

「お休みになるのなら、ベットに戻ってください。お体にさわります。すぐ整えますから」

向きをかえたエドの腕をロシェルは思い切り引いた。

「ロシェル様っ?!」

すぐ目の前にロシェルの瞳があった。ただ自分を見ているだけの瞳。

「もし、、この屋敷と財産を継ぐ権利があるとしたら、お前はそれを望むか?」

「ここで、ロシェル様のお役に立つことが生涯の役目と思っております」

「その必要がないとしたら、どうだ」

「私をいらないと仰るのなら、出て行けとご命令ください。ロシェル様の意に背くつもりなどありません」

そう答えるエドもまた、迷うことなく真っ直ぐにロシェルを見つめ返した。

ロシェルは立ち上がるとテーブルの書類を差し出す。

それを受け取り、エドはゆっくりと追った。

「父の部屋で見つけたものだ。お前と、おそらくお前の母親のことを調べてある。
 依頼人の名は父だろう。それが正しいものならば、、今の私に判断できるだけの記憶はないがな。
 お前は同じ父親を持つ、半分血の繋がった弟になる。それをどうすかは任せるよ。、、、エド?」

エドは懐かしそうに、優しく微笑んでいた。

「母の言葉は本当だったんですね」

エドはそれに火をつけると暖炉に投げ込む。

「、、、知っていたのか?知っていてずっと黙ってたのか?私がこうなっても、それでも」

「母が息を引き取る間際、先代との間に何があったのか教えてくれました。
 母の言葉とここに書かれていることは同じです」

「どうして、、恨んでないのか?お前が私の立場だったかもしれない。
 少なくとも、お前が私やこの家に仕える理由なんかないだろう。
 財産だって、鉱山の利権だって、半分はお前の物なんだぞ!」

「母が先代と出会ったころには、先代の奥様もいらっしゃいましたし
 ロシェル様も生まれておいででした。
 その時だけの縁、二度と会うことはないと思っていたそうです。
 けれど先代は、母と私を呼び寄せ私をロシェル様と同じように育ててくださった。
 教育も何もかも、同じように与えてくださりこの屋敷を任せてくださった。
 先代の奥様も、、私など憎かったでしょうに手を差し伸べてくださいました。
 何より、ロシェル様がいてくださってことでどれだけ救われたか。
 私にこの屋敷を任せてくださった、あの時の猛反発を押し切って
 先代とロシェル様はずっと庇い続けてくださった」

「エド、、、」

「母も私も、恨んでも憎んでもいません。分不相応な恩を受けたこと感謝しております」

「いいのか?本当にこのままでいいのか?」

「私の望みを叶えてくださるというのなら、どうかこのまま
 お傍でお仕えすることをお許しください」

ロシェルは天井を仰いだ。そして、エドの頬に手を伸ばすと腕の中に収める。

「思い出したいよ。何よりも、誰よりも、お前とのことを思い出したい」

「そう思ってくださるだけで十分です。、、、ロシェル様?」

ロシェルはくたりとエドにもたれた。身体が熱い。

「こんな熱で起きていらしたんですか!」

「、、、飲みすぎた、、かな、、、」

エドはロシェルをソファーへ戻しベットを整える。冷たい水と布を運ぶとロシェルを寝かしつけた。

「ひとまずは戻りますけど、何かあったら呼んでください。
 壁の右の紐が私の部屋に通じてますから、引いていただければわかります」

「、、、わかった、、」

「、、、少したったら、また来ますから」

静かに向きを変えたエドの腕をロシェルが掴んだ。

「眠るまで、、いてくれないか」

「それで、少しでも楽になるのでしたら」

エドは床に膝をつくと、ロシェルの腕を戻して手を重ねる。それに安心したようにほどなく静かな寝息を立て始めた。

「お休みなさい、、兄さん」

決して本人には言わないと決めている言葉。小さな呟きを聞く者はいなかった。


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