



「ん、、、」
差し込む朝日にロシェルは目を細める。手元を見れば、自分の手を取ったまま眠っているエドがいた。
「エド、朝だよ」
「、、、朝、、ですか、、え!?」
ぐるりと回りを見る。
「すみません!」
「何を謝ってる。おかしなやつだな」
「ここで眠ってしまうなんて、、、そんなつもりなかったんです」
「疲れてるんだろう。1日くらい何もしないでいろ」
ロシェルは優しくエドを見ていた。ここしばらく見なかった穏やかな笑顔。
事故の前の、あの晩のような。
「、、、ようやく、、、笑ってくださいましたね、、あれ、、」
知らずに涙が落ちていた。
「エド、、、」
「すみません、どうして」
止まらなかった。くいと腕を引かれ、胸元に収まる。
「ありがとう」
「ロシェル様、、、」
「お前が私の弟だって、自慢して歩きたいくらだけどな」
「私こそ、お仕えできること誇りに思います」
ロシェルの背に回した腕で一瞬強く抱きしめ、エドは身体を離す。
「熱いお茶でもいかがですか」
「そうだな、頼む」
「すぐに。そうだ、ロシェル様、アルコールは全て引き上げさせて頂きました」
「何だって」
見れば、キャビネットからは一切のアルコールが消えていた。
「メイドにも絶対に出さないよう言っておきます。お一人で外には出ないでくださいね」
なかばあっけにとられてエドを見た。
「ちゃんと食事をしてくだされば、お戻しします。何の葉になさいますか」
「、、、、、任せる」
「はい」
パタリと扉が閉まる。
「まったく、、」
ドサリとベットに身体を戻した。
「そこまでするか」
だが、そう呟くロシェルの顔には優しい笑みが浮かんでいた。
それから一週間。ロシェルの元に荷物が届いた。一度エドの手に渡り、それを持ってロシェルの部屋へと向かう。
「ロシェル様、今届いたものですが」
「ああ、きたか」
包みを開けると、更にもう一度包装された包み。
「何ですか」
「お前にだよ」
「私?」
「あの事故以来、世話になりっぱなしだからな。礼代わりだ。気の休まる暇なんてなかったろう」
「そんな、受け取れません。自分の仕事をしただけです」
エドは慌てて押し返す。
「そんなに重く考えなくてもいいだろうに」
「いいえ、駄目です」
きっぱり、はっきり言い切った。
「(意外と頑固だな)それなら、これでも駄目か?弟への誕生日の贈り物」
エドは瞳を大きく開いて見つめ返した。
「、、、戻っているんですか?いつから」
「お前がついていてくれた、あの朝だよ」
「ロシェル様、、、」
ドンと、エドはロシェルの胸を叩く。
「どうして教えてくれなかったんです!どれだけ不安で心配でっ、、、」
言葉に詰まる。
「、、、これが出来るまではと思ったんだが、すまなかった」
「、、、よかった、、本当に、、」
「受け取ってもらえるか?」
エドは包まれたそれに目を向ける。
「ありがとうございます。、、、ロシェル兄さん」
「エド、、、」
「二度と言いません」
ロシェルはエドを力いっぱい抱きしめた。
「開けてもいいですか」
「ああ、そうだな」
ロシェルの腕から離れそれを開けてみる。丁寧に作られた黒のスーツだった。
「いつもの店で仕立ててもらってるから物はいいはずだ」
「わざわざ私のために?」
「それだけの価値があると思っただけだよ。着てみてくれ」
と、くるりと背を向ける。
(ここで着替えろということですか、、、)
がざごそと包みを開け手早くすませた。
「いいか」
音がやんだところでロシェルの声がかかる。
「ええ、でも」
振り返れば、エドはどこか落ち着かない様子で自分を眺めていた。
「気に入らないか」
「いえ、私には勿体無いくらいです。ロシェル様のほうが合いそうですね」
「そんなことないさ。似合ってるよ。それともう一つ」
「もう十分です!」
「私からじゃない。父からだ」
「先代から??」
ロシェルはサイドボードから小さな箱を出してエドに渡す。
開けてみると美しい光を放つ指輪があった。
「この石、、」
「私のこれと同じだ」
ロシェルの手には同じ石の指輪があった。
「お前の母親も、同じ石を持ってたろう」
「はい。先代に頂いた物だと」
「これは父の部屋にあったものだ。
いつか本当のことが伝えられたら渡して欲しいと、手紙があった」
言葉にならず、見つめるしか出来なかった。
「名乗ることは出来なかったが、お前のことも、お前の母のことも愛していた。
信じてほしい」
「ロシェル様、、、」
エドは膝をつくと深く頭を下げた。
「心より、お仕えいたします。一生をかけて」
「頼りにしてるよ」
「はい」
傾きかけた陽が長い影を落とした。
「もうこんな時間か」
その声にエドも立ち上がり外を眺めた。
「綺麗ですね」
眩しそうに手を翳す。そんなエドの肩をロシェルはそっと抱いた。
「夕食は部屋に入れてくれ。2人だけのささやかな祝いをしよう。
それと、そろそろアルコールを戻してくれると嬉しいんだけどな」
「わかりました。もっとも、あまり残っていませんけど」
「あれ、全部飲んだのか?」
「嘘です」
「この、、」
コンとエドの頭を小突く。茜色の優しい光が2人を静かに包んでいった。