


マスカレード(U)
そして当日。通りには多くの露店が立ち並び、朝から大勢の人たちがくりだしていた。
「すごい、、どこからこんなに来るの」
初めてみる人の波にガレリアが呟く。
「はぐれるなよ」
「うん」
店先を覘きながら歩いていくが、どうにもルディのことが離れなかった。
「ルディのこと気になるか」
「何だか、辛そうだった」
ポンと、レイスの手がガレリアの頭にのる。
「あとは、あいつが自分で決着をつけるしかない」
「、、、いつ始まるの」
「今夜、広場が舞台だ」
太陽が沈み月が昇る。
広場の中央が空けられ、その回りを囲むように人々が集まっていた。
中央に向かって一本の道が作られる。炎が赤い影をつくり、銀色の光が溶け込む。
そして、女神がこの地上での最後の一日を終えてこの場所に姿を見せた。
女神は月を見上げて彼を想う。
戻らなければ彼は命を落とす。命が生まれ、還る場所。
その場所を統べる者がたった一人を想うなど、あってはならないことなのだから。
「ありがとう、、さようなら」
月に向かって告げたとき
「待ってくれ」
声がした。今想ったその相手。
駆け出そうとした女神の腕を青年は掴んだ。
「離してください」
「私も行くよ」
「それが何を意味するのか、わかっていて言うのですか」
女神は背を向けたまま振り返ろうとはしなかった。
「同じことだ。このまま君を引き止めておけば私は死ぬんだろう。
だったら私は君の住む水底で眠るよ。
君に抱かれて、君の住む世界で眠り続ける」
「私にあなたを殺せと」
女神は振り向いた。こぼれる涙が真珠に変わる。
「君といる今がどんなに幸せかわかるかい?永久の別れと知ってこのまま行かせるものか。
生きながら死ぬくらいなら君の隣で眠りたい。それが私の望みだ。
他の全てを失っても、君といられるのなら私は君を選ぶ」
(ルディ、、あなたは、誰を見てるの、、、)
いつもなら、観客から歓声が上がりため息やささやきがこぼれた。
だが今、人々は静まりかえっていた。
「あなたを、、愛しています。心から。己の命よりも」
その眼差しに込めた想い。優しさと切なさと、めいいっぱいの愛しさを。
見ている者まで切なくさせる究極の想いだった。
恋をしているならば、なお更息苦しいほどに何かが胸を満たしていく。
女神の涙は止まらない。それはアントワネットの涙なのか。
「口付けを受けていただけますか?あなたを永久に私の住む世界へ」
「喜んで」
2人の間で交わされる口付け。
女神の腕の中で崩れ落ちた青年の顔は
満たされた、穏やかなものだった。
こうして、女神と青年の恋は幕を下ろした。
突風が松明の炎を消し去る。
静まり返ったまま、誰も動けぬ中で
その静寂を破り祭りの最後の夜を告げる花火が上がった。
その光の中でルディはゆっくりと立ち上がり
アントワネットの手を取ると観客に向かって一礼する。
どっと、歓声が上がった。
興奮した面持ちの観客に囲まれた2人を
レイスとガレリアは少し離れた位置から見ていた。
(そういうことなの?、、、ルディさん、、、だから、、)
ガレリアはいたたまれなくなる。
考えているとおりなら、ルディの心は悲鳴を上げているだろうに。
「戻ろう、レイス。見ていられない。
こんなの、、、辛すぎるよ」
「、、、、、」
ガレリアの肩を抱き、この喧騒から逃げるようにこの場を離れた。
ルディとアントワネットが人々から解放されたころには夜明けが近づいていた。
アントワネットの店の前。
「お疲れ様でした。いい思い出になります。ありがとう」
「ルディ、あなた」
「何も言わないでください。あなたはどうか今のままで。
少しでも眠ってくださいね。お休みなさい」
朝もやの中に消えていくルディを追いかけることは出来なかった。