マスカレード(T)

「私ですか?」

一年で街が一番賑わう季節が巡ってきた。街をあげての祭りの季節。

メインストリートは美しく飾られ、大勢の人たちが祭りを見に集まってくる。

その背景にあるのはいつからか伝わる恋物語。

海に住む女神と一人の青年が恋をした。だが海の王はそれを許さず青年は命を落とした。

嘆き悲しんだ女神の涙は大津波となって街を飲み込み、波が引いた後には真珠が散らばっていたという。

祭りのクライマックスはその恋物語の再現。青年役がルディに回ってきたのだ。

「わかりました。いいですよ」

深くは考えずに引き受けた。その数日後のアントワネットの店。

「今年の青年役ルディに回ったのね。よろしく」

「よろしくって、、あ」

ルディは呆然とアントワネットを見返す。

その反応にアントワネットのほうが驚いていた。

「まさか、今年の女神は」

「あたしだけど、知らないで引き受けたの?」

「そこまで考えていませんでした」

本当に、何も考えずに引き受けていた。

今のルディには相手が悪すぎた。

ついこの前、アントワネットに好きな相手がいるか訊かれたばかりだというのに。

「はあ、、、」

知らずにため息を落としていた。

「ルディ、あたしが相手でやりにくいなら断ってくれてもいいのよ」

「いえ、そういうことではありません。すみませんでした」

「でも」

いつもの表情に戻っているルディだが、アントワネットはどこかに残る。

「本当に何でもありません。近くなったらまた来ます」

そう言うとルディは店を出た。その少し後、カランとベルが鳴り

「こんにちは」

届いたのはガレリアの声。

「いらっしゃい。あ、、」

そして後ろに立つレイスが着ているものは、ガレリアから依頼があった蒼のドレススーツ。

「ありがとう」

アントワネットが告げたのはたった一言。そこに想いを乗せて。

「自分からは絶対選ばない色よね。たまにはいいでしょう」

「でもレイスったら、これ着るとなかなか鏡の前から動かないんですよ」

「おい、ガレリア」

珍しくレイスが焦る。

「落ち着かないって言うけど、似合ってますよね」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ」

そう返しはするものの、鏡の中の自分とにらめっこをしているレイスが浮かび
アントワネットは笑い出しそうになるのを必死でこらえた。

レイスはフイと横を向いたまま憮然としている。

「それで、今日は注文かしら」

「いえ、お祭りを見に来たんです。話には聞いてたけど見たこと無いから」

ガレリアの言葉にさっきのルディが浮かんだ。

「アントワネットさん?」

「どうした」

表情を曇らせたアントワネットに2人が気づいた。

「今年の女神と青年役、あたしとルディに回ってきたの。
 でも、ルディがやり難そうで少し気になってね」

「あいつだって、自分で決めて引き受けたんだろう?」

「押し付けられてそのまま引き受けるとは思えないけど」

「相手があたしだって知らないで引き受けて、それがわかったときずいぶん驚いてたわ。
 やりにくいなら断ってとは言ったんだけど」

「これからルディさんの所にも寄るから聞いてみましょうか」

ガレリアの提案に少し考えたが、アントワネットは首を横に振った。

「いいわ。話してくれる気になれば、ルディのほうから言ってくれるでしょう。
 あ、ごめんなさい。お茶入れるわね」

それからしばらくのお喋りのあと、レイスとガレリアはルディの事務所へと足を向けた。


一方のルディ。

「断るなんて無理だよな、、、」

今から断れば、それは相手がアントワネットだからと言っているのと同じこと。

さっきのやりとりで感づかれているかもしれないが、これ以上自分から認めるわけにはいかない。

「祭りまでには割り切れるさ、、、、割り切れよ」

自分に言い聞かせる。呼び鈴が鳴った。

接客の用意をして入り口の扉を開ける。

「こんにちは」

「、、、どうしたんです、2人揃って」

「ガレリアが祭りを見たいっていうから連れて来たんだ」

「祭り、、そうですか。どうぞ」

2人を中にいれ、ルディは扉の札を架け替えた。

「今年の女神と青年役、アントワネットとお前になったんだってな」

「ええ、、まあ、、まるっきり知らない相手のほうが気持ちの上では楽ですけど
 一度引き受けたものはやりますよ」

「、、、、、アントワネットさんだから?」

「、、、、、いえ、一般論です」

ルディはガレリアの視線から逃れるように目をそらせる。

疑いを持たない、いつでも正面から真っ直ぐ向けてくる眼差しだから
気づかれたくない心まで見透かされそうな気がするのだ。

「お前が自分で決めたことなら、どうこう言うつもりはないよ」

レイスはこの話を打ち切った。ルディはどこかで安心する。

そして、同じようにとりとめのない会話で時間はゆっくり過ぎていった。



   BACK    NEXT