片翼の行方(U)
ルディが内に秘めていた片翼を抜き、手術を終えてから数日後。それぞれがキエヌのいるべき場所へと戻った。
アージュからの安定しているという連絡に、ひとまずは胸を撫で下ろす。
あとは、風響が己に宿したキュリオの片翼を抜くことだけ。
「風響のほうは?痛いとか、苦しいとか」
「抱えているだけなら、それはない」
「いつにするんですか」
「シャルミラたちと、相談だな」
「私も連れて行ってください」
「、、、、、、」
「お願いします」
「決まったら、、、教えるよ」
どこか、はっきりしない返事だった。ルネはしがみつくように風響を抱きしめる。
「、、、嫌だ。ここまできて失うなんて」
「いなくなったりしないから」
「、、、、、」
それでも、不安は消えない。だが、これ以上言える言葉もなかった。ただ、どちらからともなく寄り添うだけだった。
「ルネ、、、眠ったな」
ルネが眠っているのを確かめて、そっとベットを抜けた。
「悪い、、だけどこうさせてくれ」
ルネのいないところで決着をつけたかった。翼の件は、自分とキュリオとシャルミラの間の出来事。
それに、、、その瞬間を見られたくないという、少しの強がり。
「帰ってくるから」
かすかに触れる口付けを残し、風響は塔へ向かった。
「、、、、、シャルミラ、風響だ」
キエヌに建つ塔。夜の闇の中に風響の姿をみつけたのはキュリオだった。
「来ましたか。キュリオ、立会い本当にいいんですね」
「うん。僕の翼だもの」
「では、行きましょう」
「夜にすまない」
「いえ。大まかにはランスから聞きました。風響、あなたから抜くときの痛みと
代替わりとなるルディから抜いたときの痛みと両方かかります。それで、いいんですね」
シャルミラからの最後通告。だが、迷うはずはない。
「頼む」
「、、、、、ルネには」
キュリオがシャルミラの後ろから顔を覗かせた。
「黙って出てきたんだ。一緒に来たいとは言われたけど」
連れていたくない理由も何となくわかった気がした。キュリオは風響の手を取った。
「大丈夫。帰れるよ」
「ありがとう」
羽音と共に風響の背に片翼が翻る。その翼はキュリオのもの。
「、、、あの時の、僕の翼」
「ああ、そうだ」
忘れられない光景。奪われたときの感覚が蘇るが、どうにか踏みとどまった。
「キュリオ、お前の権利だ。頼むよ」
「、、、、」
ゆっくりと翼に触れる。背を向けて跪く風響は裁きを待っているようだった。
理屈ではわかっていた。それを自分がすることが、風響にとっての謝罪だと。
だが、同時にわかっているのだ。その瞬間がどんなものか。どれだけの負荷なのか。
「風響、このまま持っていたら駄目なの?」
「何のためにここに来たと思ってる」
「だって、わかるから。その瞬間を知ってるから」
「、、、ルネと新しく始めるために、これだけはやりたいんだ。どうしても」
「でも、僕は」
「頼む。この通り」
「風響、、、、」
自分に向かって頭を下げる風響。そう、わかっている。想いも、最悪の結末も。
だから、手を出せなかった。と、黙っていたシャルミラが風響の後ろに立った。
「風響、キュリオには酷です。私でもいいですか」
「シャルミラ、、、だけど、もし失敗したら。ルネのところに帰したいんだ」
「私だって同じです。けれど、このまま帰ったら、ルネといても笑えない」
「、、、、ありがとう。シャルミラ」
「キュリオ、風響を支えていて。無理をしないで、キュリオに預けてくださいね」
「わかった」
「シャルミラ、、、」
黙って頷いたシャルミラを見て、キュリオは風響を腕に収めた。シャルミラの手が翼にかかる。
「いきますよ」
「ひといきで」
一呼吸おき、そして
「グアッッ!、、グゥッ、、ッ、、ガァアッ!」
悲鳴のような絶叫が響いた。傷にはならないが背中の片側だけに激痛が走る。
「あ、、ぅ、、、」
代替わりのぶん、キュリオのときよりも負荷は重い。抱きしめた体が震える。
「、、、大丈夫。帰れるからね」
「ル、、ネ、、」
その呟きが、風に乗った。