
片翼の行方
気持ちよく晴れた日の夕刻。ソレアからの船がキエヌに入った。
予定より遅れての入港ということもあって、降りてきた旅人を大勢の人たちが出迎えた。
ルディと愁馬にも、このざわめきは懐かしい。
「思ったよりかかってしまいましたね」
「急に天気が悪くなるなんて思わなかったもの。もう夕焼けだ」
愁馬が空を見上げる。出向直前の天候悪化で足止めをくらっていたのだ。
「無事に戻れて何よりです。お疲れ様でした」
「ルディさん、ガレリアさんと会わせてくれてありがとう」
「いいえ。大したことはしてませんよ。愁馬は銀月に戻るんですか?」
「荷物もあるから一度家に戻る。ルディさんのお店のほうにも行くね」
「では、また後で」
お土産と、自分の荷物を抱えた愁馬の姿が人の中に消えて、それを見送ったルディの姿も逆方向に紛れて消えた。
「此処まで来て、、、、」
ソレアを出発してからキエヌの港まで、崩れることなく安定していた。
なのに、その反動とでもいうように急に体が動かなくなった。
せめて家にたどり着きたい。帰ってきたことを伝えたいと歩き続けるも、思うようには進まない。
止まってしまったら1人では動けなくなる。頭ではわかっているのだが、、、
「う、、、づっ、、」
脇道へ入り足を止めた。もう、届かないかもしれない。ふと、そんな想いがよぎった。
「、、、、夢をみてるみたいです。このキエヌに風響といるなんて」
「夢じゃない。ここにいるよ」
向けられた微笑に、ルネもまた照れながらもにこりと返した。
死神との取引。大鎌と引き換えに手に入れた永遠も持つ魂。それだけのはずだった。
だが、それは運命の再会。風響にとって暖かな大切な存在に変わり、愛し愛されて2人はキエヌに落ち着いた。
今のルネは人ではない。鼓動は止まり、悪魔との契約のうえで永遠を生きている。
そして風響は黒の双翼を持つ者。
けれど、その違いを超えてなお、互いの存在は何よりも大切なものに変わっていた。
空の下を2人で歩く。そんなことが、嬉しくて幸せな時間になる。
「ん、、、?」
「どうしました」
「あれって、、、、」
風響の視線の先にあるもの。脇道から何かの影が伸びていた。近づいてみると、人だった。
「しっかり。聞こえますか」
医者だけにルネのほうが反応が早い。揺り起こしたルディがわずかに瞳を開けた。
それはアメジストとエメラルド。2人は互いの顔を見る。
「、、、、家に帰る、、途中で、、」
どうにか告げた言葉も、それがやっとだった。気を失ってルネの腕に落ちる。
「風響、この人が」
「片翼を知らずに秘めている魂。帰ってきてたのか」
「キエヌについて、戻る途中なんですね。この荷物、旅行用ですよ」
脇にあるのは旅行用のトランクだった。アントワネットはまだ知らない。
「どうしますか。翼のことは後にしても、大分苦しそうだし急いだほうがいいかもしれません」
「私たちの家に運ぼう。そこで終わらせたほうがいいかもしれないな」
「キュリオたちには」
「抜くだけなら何とかなる。一度私の中に入れるから、2人には後でいい」
「わかりました。、、、風響」
ルネは片腕でルディを抱え、もう一方で風響を掴んだ。
「成功しますよね?みんな無事で、終わったら風響がいないなんてこと、ないですよね」
「、、、、、」
成功する保証は無い。だが、終わらせないと本当の決着がつかなかった。
有翼の世界で自分がしたことを清算するために。キエヌでルネと生きるために。
「大丈夫。お前のところに帰るよ」
「、、、信じます」
これは、むしろ願い。強く願いながら、ルディを連れて家路を急いだ。