隣国との争いが絶えない国だった。若者は交代で戦地へ駆り出される。

毎日何処かで交わされる約束。街を見渡せる丘で、また一つの約束が生まれる。

「綺麗な空だな。砦から見る空も同じ色なんだろう」

「サイラス、、」

戦場へ発つ前の最後の逢瀬。向かうのは戦況が最も厳しいといわれる砦だった。

帰還兵の率が一番低い場所でもある。

「イルマ、もし帰ってくることができたら」

「もしもなんて考えないで。待ってるわ。何年かかっても」

「だけど、戻れない可能性のほうが高いんだ。
 まさか幽霊を待つわけにはいかないだろう。
 私だって、させたくない。帰ってくる努力はするから」

「、、、、、」

サイラスの想いがわからないではない。

帰って来れない可能性が高いことは、イルマとて十分承知している。

実際、2人いる兄のうち1人は帰らぬ人となった。

気休めとわかっていても帰ってくると言い切ることと
サイラスのように現実を告げるのと、どちらが優しさなのだろう。

イルマはサイラスの手に自分の手を重ねる。

「帰ってきたその時は、あたしと結婚してください」

「、、、イルマ」

「きっと、帰ってこれるわ。毎日祈ってる。
 あなたと、戦地にいる人たち皆のことを」

「ありがとう」

「危なくなったら逃げてね。絶対に生きて」

「(くす)他には言うなよ、そんなこと」

「あなただけ」

草の海が優しく凪いだ。


戦地へ向かったサイラスからは近況を知らせる手紙が届けられた。

だがそれも、戦況が厳しくなっているとの噂が広まるにつれ途絶えるようになった。

やがて半年が過ぎ、一年が過ぎ、、、生きていれば戻ってくるはずの日。

だが、帰還した男たちの中にサイラスの姿はない。それでも、イルマは待ち続けた。ただひたすらに。

そして更に季節が巡った。

「イルマ」

「兄さん、、」

「いつまで待つつもりなんだ」

「まだ戦死だって決まったわけじゃない」

無言の帰還となった男たちもいる。だが、その中にもサイラスはいない。

諦めたくなかった。どちらの結果であれ、確信できる何かが出るまでは。

だが、兄のフランにとってそんなイルマを見ているのは限界に近かった。

明るい笑い声は影を潜め、窓から外を見ている瞳は寂しげで。

フランは背中からそっと抱きとめる。

「お前が心配なだけだよ」

「、、、、、」

「このままじゃ、お前のほうが倒れてしまいそうだ。
 サイラスとお前のことは認めていたし
 兵役が終わったら一緒になることだって賛成してた。だけど、、、」

”幽霊を待つわけにはいかないし、してほしくない”

サイラスの言葉が頭をよぎる。

「イルマ、ラウル・サルバトゥールという名前は知っているだろう」

「知ってるけど、彼がどうかしたの」

容姿、性格ともに評判のいい、この一帯では名の知れた名門の息子。

よく娘たちの話題になる人物だ。

「そのラウルが、お前を迎えたいと申し出てきた」

「あたしを?」

それは思ってもみないことだった。どこで目に留まったというのだろう。

「でも、、、」

「サイラスのことは話したよ。その思いを抱いたままでいい。
 時間はかかってもいいからお前の笑った顔がもう一度見たい。
 そのために力になりたいと、そう言ってくれた」

「、、、、、」

「彼に任せてみたらどうだい。私もお前にもう一度笑ってほしいんだ」

「兄さん、、、」

フランが自分を心配してくれていることも
サイラスへの想いを知った上で迎えたいという、ラウルの優しさも
それでも、待ちたいという自分の想いも、全てわかる。

だから、その全てを抱えていることに疲れ始めたのかもしれない。

「サイラス、私のこと恨むかしらね」

「イルマ、、、」

「何だか、疲れた」

「償いなら何でもする。お前に対しても、サイラスに対しても」

涙を見せまいと、そう思い必死で守ってきたイルマは、初めて泣いた。


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