


灯りなどない夜の道。月と星の光を頼りに少しでも安全な道を進む。
「クウヤ、少し止まろうか」
「、、、いい、このまま」
他者の封印を解くことは賭けでもあった。
自分のものより強固な封印を解こうとすれば代償は自分自身。
ヒユラはその境界線にいた。
しばらくして、二股に別れた道の前でヒユラは足を止めた。
「右に進めば町にでられる。ここからは1本道だし月の光も十分入るから
1人でも行けるよ。気をつけて」
「1人って、、、クウヤは」
「、、、戻る」
「、、、私を逃がしておいて、無事ですむのか?」
「、、、、、」
「どうしてこんなこと!」
膝を折り、同じ高さで見た瞳からは、紅い滴が落ちた。
「僕は人と一緒にはいられない。でも、あなたは死なせたくなかった」
「、、、ヒユラなのか?似ている他人じゃなくて弟の」
「ヒユラ」
声とともに姿をみせたのはルイス。
「自分のしたことがわかっているのか」
「わかってる。この代価、僕自身で足りるかい」
「、、、私の身代わりになるつもりだったのか?始めからそのつもりで」
「もう、十分生きたから。それじゃ」
歩き出したヒユラをシャウルは引き戻した。
「ヒユラが戻るのなら私も戻る。ヒユラの傍なら、、眠りにつくのも悪くない」
「、、、変わってない、、ほん、、と、、」
「ヒユラ!」
シャウルの腕の中に倒れこんだヒユラはひどい高熱をだしていた。
「ヒユラ、しっかりしろ」
「、、、兄さん、、」
「、、そうなんだな。ヒユラなんだな!」
ルイスがそっと手を添えた。
「あの時、崖の下に倒れていたヒユラを私は助けた。
だが、人としての蘇生には間に合わなかった。
闇の住人として生きてきたその間、姿は変わっていない」
「ヒユラ、返事をしてくれ。やっと、会えたのに」
「帰ろう、、、家へ、、帰りたい、、」
「、、、連れて行け」
その言葉に、シャウルは改めてルイスを見る。
「あの封印を解いた時点で立っているのもやっとだったはずだ。
それを気力だけでここまで来たのだから、もって一日だろう。
最後は任せる。だが」
ルイスはシャウルを見据えた。強い意志を持って。
「私たちが生きるためには人の命を糧にする。これは動かせない事実だ。
お前にしたことを謝るつもりはない」
「、、、ヒユラを助けてくれたこと感謝します。
こうして私の元に帰してくれた。ありがとう」
「、、、ヒユラ、聞こえるか」
「、、、ルイス、、」
「お前と過ごした時間は私にとって唯一の穏やかなときだった。ありがとう」
うつろな眼差しがルイスを見る。初めて見た微笑にヒユラも微笑んだ。
「、、、笑った顔、、初めてだ、、そのほうが綺麗だよ、、、」
「、、、お前もな」
小さな額に口付けを落とし、その姿が森の奥へと消えた。
「、、兄さん、、ここは、、」
「気がついたか」
もやがかかったように、思考が回らない。部屋をゆっくりと見渡す。
「帰ってきたんだよ」
「帰って、、、」
「ここは私たちの家だ」
まだどこか状況のわかっていないヒユラをシャウルは抱き寄せる。
「お帰り、ヒユラ」
「あ、、、離して、僕は」
「何も言わないでいい。お前は私の弟でヒユラ、それだけなんだから」
「兄さん、、、」
しがみつき声を上げて泣いた。紅い涙など構わずに。
そんなヒユラをただ抱きしめる。
その夜は、ヒユラはシャウルの腕に守られて静かに寝息を立てていた。
そして朝。永久の眠りについたヒユラを朝の光が迎える。
「、、、、ヒユラ、、」
小さな身体を抱きしめて、シャウルは声を出さずに静かに泣いていた。