

宵闇草子
世界のどこか。
人と呼ばれる命が住む里と、妖しと呼ばれる命が住む里があった。
己に無い力を持ち、己とは異質のもの。
互いを恐れ、摩り替わった憎しみと悲しみが心を曇らせる場所。
だがある時、互いを慕う2つの心がその垣根を越えてしまった。
そして、人と妖し両方の血脈を受ける双子が目覚めた。
人であった母と、妖しであった父は引き離され、双子もまた生まれながらに罪を背負う。
人々から忌み嫌われ、軟禁状態でただ2人寄り添って命を繋いだ。
けれど、より強く妖しの血を受け継いだ兄に第2の目覚めが訪れた。
妖しとしての血は生きるために弟を求め、牙を打ち込んでしまったのだ。
生かすために。生きるために。
やがて人と妖しの争いは激化し、ついに人は妖しの里を攻め落とす。
けれど、復讐を恐れた人の心はより荒廃し、結果人里は治安を悪くする結果となった。
そんな中で、2人を軟禁していた人間が人里を捨て姿を消す。
持てるだけの路銀を手に、双子もまたこの地を捨てたのだった。
「、、、、、どれだけの時が過ぎたのだろう」
人里を出てキエヌにたどり着き、ようやく暮らしも安定した。
半妖としての消せない宿命と共に、蛍雪と2人で生きていくことが全て。
「また動けなくなってるの?」
不意にかけられた声に目を向けると、セナがいた。
「先日はありがとうございました」
「別に」
言いながら隣に座る。
「弟さんも変わりない?」
「あの、、、」
白竜は言いよどんだ。
誤魔化すのが苦手。あるいは素直というべきか。
「今度は弟さんのほうが具合悪いんだ」
「ええ、、、少し」
少しというのも、怪しい物言いだ。
「お見舞い、行っても平気かな」
「え、、、、」
「少し顔見るだけだよ。面会謝絶なら遠慮するけど。
一応知った相手だし、様子は気になるからね」
対を失えば自分も消える。
白竜も同じ覚悟を持っているのだろうか。
知りたいと思った。この2人を。
「どう?」
受けた白竜は考えた。
自分たちの中に他人を入れたくは無い。
一方で、深入りさせずに距離は保ちつつも
何かの時に手をかりることの出来る相手はほしい。
白竜はかけてみることにした。
「どうぞ、会ってください」
セナを連れて白竜は家に戻った。
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港近くの酒場。開店前では人影も少ない。 裏手から入り、蛍雪の部屋に向かう。 不規則なノックを3回。これが2人だけの合図なのだろう。 蛍雪はベッドに横たわっていた。 「蛍雪」 「ん、、、兄さん、、、」 「途中でセナさんと会った。見舞いに来てくれたよ」 「え、、、、」 セナも静かに傍らに寄った。 「具合悪くしてるって聞いたから、少し気になって」 「こんにちは」 細い声だった。それに熱もあるのだろう。 肌が赤みを帯びて色づいている。 「医者には」 答えたのは白竜。 「診せましたが、はっきりとはわかりません。 「いつからなの?どんな症状?」 「3日、、、、くらい」 ひとしきり話を聞いたセナは一つの病に思い当たった。 「まさか、、、、、リアス熱じゃ」 「リアス熱、、、、あの、それはどういったものですか」 「ああ、移り住んでるから知らないか。だとしたらやっかいだな」 リアス熱。発症した場合の致死率が60%という 薬が間に合わず、大勢の死者を出した。 製造が急ピッチで進められどうにか押さえ込み だからこそ、若い医者ではリアス熱とわかっても まして今、薬の入手は困難だ。 副作用の報告も多くあったため、落ち着いた頃に キエヌの住人に対しては予防の投薬が進められたが 当人の前でこれを告げていいものか。 迷っていたセナに 「難しい病気なんですね。 「蛍雪、、、、」 「そうだね。あなたなら」 あれだけの覚悟を持っているのなら 「医者じゃないから断定はできないけど 「そんな、、、、」 「兄さん」 「診せた医者がまだ若いなら セナは席を立った。2人で話したいこともあるだろう。 「薬、見つかること祈ってるよ」 「、、、、、ありがとうございます」 「あの、セナさん」 「何」 「触れてもいいですか。 「蛍雪、それは」 「あ、、、でも」 「触れたくらいでうつりはしないよ。大丈夫」 セナは静かに手を重ねた。 「右に触れてるのが僕の手」 「、、、、あったかい」 「、、、、、」 そんな言葉をかけられたのは初めてだった。 何故、この状況でロバートを思い出すのだろう。 この言葉をロバートに求めているというのだろうか。 苦しかった。 「、、、、、あまり長くなっても疲れるでしょう。このへんで」 「はい」 「ありがとうございました」 2人の声を背中で聞いて、セナはこの家を後にした。 |
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2人だけになり、白竜は蛍雪を腕におさめる。
「蛍雪、、、、、」
特別な薬であればあるほど、半妖の自分たちにどんな影響があるかわからない。
ひとまずの解熱剤とて、実際効いているのかわかりはしないのだ。
「全ては、、、、さだめのままに」
蛍雪の静かな声が、2人をそっと包んだ。