キューピッド


数日後のキエヌ街中。

「はぁ、、、、」

ベンチに座った絽帆は大きな溜息を落としていた。

キュリオと出会ったあの日以降
虎丞との会話は必要最低限なものに留まっていた。

絽帆は夢のせいで距離をおき
虎丞は虎丞で、家から出てきたキュリオのことが離れない。

その反動か、夢の中の自分は虎丞を傷つけ苦しめる。

「どうしろっていうんだ、、、、、」

離れたほうがいいのだろうか。虎丞を守るには。

「絽帆さん?」

呼ばれた声に顔をあげると、キュリオがいた。

「こんにちは」

「どうも」

「この前お借りした服、返しに行くところだったんです。
 、、、、、大丈夫ですか?顔色よくないけど」

キュリオは隣に座った。

顔色が悪く、ひどく疲れているような感じを受ける。

「ここ何日か眠れてなくて、そのせいかな」

「休んだほうがいいですよ。家まで一緒に」

「外の空気にあたっていたほうが楽なんだ」

家には虎丞がいる。今は戻りたくない。

「でも、、、、」

心配するなというほうが無理だろう。

ならば別れて場所を変えたほうがいいかもしれない。

「それはもらっておきます。
 足止めしても悪いし、戻れるから、、、、、」

「絽帆さん!?」

立ち上がった絽帆だが、一瞬意識が落ちた。

支えたキュリオは、ゆっくりとベンチに戻す。

(これじゃ、一人で返るなんて無理だよ。
 その前に少し横になったほうがいいかもしれない)

キュリオは周囲を見渡し、休める場場所がないか探す。

と、見える範囲に宿屋があった。

「絽帆さん、宿屋があるから休ませてもらいましょう。
 少し横にならないと、返るのは無理ですよ」

「、、、、、」

「ね、そうしてください」

「、、、、、すみません」

このままにはできないとわかっているけれど
今は考えたくない。何も。

絽帆はキュリオに従い宿屋に入った。






 




「、、、、、どうして。僕の他に気になる人ができたから?だからなの?」

宿屋に入る2人を見ていた人物は、他でもない虎丞だった。

「絽帆、、、、」


キュリオのほうで事情を説明し、一室借りた。

絽帆はすぐに、体を横たえ目を閉じた。

「眠れればいいけどな」

この前の時は、体調不良など感じなかった。

わずか数日での変化にしては、大きいと思う。

30分が過ぎ、一時間がたった。

「ん、、、、」

「絽帆さん?」

絽帆が動いた。ベットに寄り静かに声をかける。

「大丈夫ですか?眠れました?」

僅かに瞳が開いた。

そして、腕を引かれそのまま抱きしめられた。

「絽帆さん!?」

「、、、、すまない、虎丞」

(虎丞?夢の続き?)

「不安な想いさせてるよな、、、、ああ、わかってる。
 俺のせいだ、、、、。お前を傷つけたくない。
 けど、このままじゃ、俺は自分を抑えていられなくなる。
 抱きしめたくて、、、、肌を重ねたくて、、、、
 愛してるから、俺のものにしたくて、、、、、」

(絽帆さん、、、、)

「お前を壊してしまう前に、離れようかとも思った。
 だけどもう、それもできそうにない。
 愛してるよ、、、、虎丞、、、お前を愛してる、、、、」

(苦しそう、、、、)

愛するという想いはよくわからない。

けれど、絽帆の言葉は苦しそうだった。

眠れていないというのも、そのためだろう。

守ろうと必死になって、自分の感情を押し殺している。

キュリオはそっと、手を腕に乗せる。

シャルミラが自分を包んでくれる優しさを
思い出し、伝わるように。

「今の言葉、伝えてみたらどうですか。虎丞さんに」

「虎丞、、、、、え」

夢現だった意識が、ゆっくりと引き戻される。

今目の前にいるのは、虎丞ではなくキュリオ。

「じゃないと、あなたが壊れるんじゃないかって。 
 そんな気がするんです」

「あ、、、す、すまない!」

夢から覚めた絽帆はベットをおりて手をついた。

「俺は何てことを。本当にすまなかった、この通りだ。
 そうしたいなら、警備隊を呼んでくれ。逃げはしない」

「あなたが捕まったら
 虎丞さんから逃げることになりませんか?」

「それは、、、」

「驚いたけど、大丈夫です。隣、座ってください」

「ああ、その、君が楽になれるように動くから、言ってくれ」

「はい」

距離を残し、キュリオの隣に座った。

「虎丞さん、ですよね」

「、、、、、」

「大切で守りたい人。一緒に住んでる」

「俺の我儘さ」

「僕は、愛するっていう気持ちよくわからないけど
 絽帆さんの気持ちは伝えてるんですか?」

「一緒にいたいって、言ってくれてる。
 だけどきっと、虎丞の一緒にいるっていうのは
 本当にそこまでなんだ。俺は、、、、」

「このまま何も言わないでいたら、絽帆さんのほうが
 壊れるような気がするんです。
 眠れないのも、きっと黙っているのが苦しいからじゃ」

「俺は、夢の中で虎丞を苦しめて泣かせてる」

絽帆は己の手を見つめる。

「現実じゃ虎丞と距離をおいて不安な顔させて
 あげく気を使ってくれた君にまでこんなこと。最低だな」

だがそれも、大切で守りたいから。

ならば尚更、最悪の結果にはなってほしくない。

「すれ違ったまま、2人とも傷ついて苦しむような
 ことにはなってほしくありません」

「、、、、、」

「だから、伝えてあげてください。
 大切で守りたくて、愛してるなら」

「だけど、俺の望みは虎丞を最も傷つける」

「それは、虎丞さんが自分の言葉で言ったの?」

「、、、、、」

「絽帆さんの気持ちが虎丞さんにとって重荷なら
 離れることが解決策かもしれない。
 その答えは、絽帆さんだけじゃなくて
 2人で出してほしいんです」

「、、、、君は、天使か」

「え、、、」

「迷って、袋小路を彷徨う人間に
 道しるべを与えてくれる」

「僕は、、、、白い翼なんか持ってません」

例えだとわかっていても、つい反応してしまう。

この背にある翼は黒の片翼。

向こうの世界で、白は自分を疎みさげすんでいた。

シャルミラ以外は。

もし、自分が道しるべを与えられるならそれは
シャルミラが自分にくれたものだ。

「でも、あなたと虎丞さんの天使になれるなら
 僕も嬉しいです」

「ありがとう」

見え始めた光。しかし、嵐はすぐそこまで来ていた。


















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