

小さな宝物
並行して同時に存在する2つの世界。
一方には背に翼を宿す命が存在し、もう一方には翼を持たぬ命が存在する。
それぞれに息づく地で、日々の営みは続いていた。
人と物が交差する宿場町サルバス。
この町で酒場を営むソプレーゼは、いつもの時間に開店準備を始めた。
同じような店がしのぎを削る中でもソプレーゼの店は客足がよく、多くの旅人賑わう。
準備を始めてほどなく、店の扉が開いた。
「すみません、まだ準備中」
気の早い客だと振り向いたソプレーゼは、思わず手を止めた。
扉をくぐったその相手は
「兄貴、、、、」
「元気か」
兄のヴェリルだった。
「おい、そんな幽霊でも見るような顔するなよ。
そうか、感動の再会に声もでないか。可愛い奴」
「だ〜っ。抱きつくな」
「つれないな」
だが、こたえている様子はない。
「まったく、いつだって急だな。
先に連絡の一つくらい、入れればいいだろうに」
「いなかったら出直せばいいし
それに、来るなっていわれても困るからね」
「そういうつもりじゃないけどさ」
ソプレーゼは仕事に戻ろうとしたが、はたと気が付く。
ヴェリルの仕事は教師。
顔を見に来るといっても、わざわざそれだけにために
休みを取るだろうか。
特別休暇の時期でもない。
「兄貴、今日休みか?」
ソプレーゼの問いに、ヴェリルはあっさりと返した。
「辞めたんだ」
「、、、、、は?」
「辞めて少し落ち着いたらお前の顔が浮かんでね。
実家に戻るのも悪くないかと思って」
「辞めたって、どうして」
「その、、、まあ、いろいろ」
「、、、、、」
にごした言葉の裏に何があるのか。
気まぐれなところは多少あるが、無責任ではない。
「兄貴なりに考えはしたんだろうけど、、、、
まあ、次の仕事が見つかるまでは」
「一緒に暮らせないか」
「何だって?」
ソプレーゼにとって予想外の言葉が続く。
「仕事は当面ここを手伝わせてもらいたい。
勿論給料はいらないし、家のこともするよ。
お前が結婚してるなら考え直すが」
「まだ独りだ。
けど、家にしたって店の仕事にしたって
急にそんなこと言われても無理に決まってるだろう。
それこそ、来る前に話してくれれば」
「考えてみてくれ。宿を一週間とってある。
宿の場所、これに書いてあるから。
無理なら断ってくれ。仕事の途中に悪かった」
「兄貴」
メモを置いて、ヴェリルは店を出た。
「、、、、何考えてるんだ」
先に相談するだけの余裕もなかったのだろうか。
何か思いつめてのことでなければいいが。
メモを片手に、ソプレーゼはヴェリルの横顔を思った。
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店を出たヴェリルは途中のベンチで足を止めていた。 「当然だよな」 ソプレーゼの言い分は当たり前で だが、浮かんだソプレーゼへの懐かしさに 勿論、断られれば押し通しはしないけれど。 片腕には少しばかり軋みが残る。 辞めた理由は、後ろめたいものではない。 しかし言い訳がましい気がして、素直に言えなかった。 とにかくこちらからの球は投げたのだから ヴェリルはベンチを立った。 |
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「今度はこっちが行くまで顔出さないつもりか」
最初の一度きり、ヴェリルは顔を見せなかった。一緒に暮らすことが嫌ではないし、部屋だってある。
しかし何の説明もないまま、というのが引っ掛かり、もう少し話を聞けないかと思いながら宿に向かっていた。
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「よさげな宿だな」 ヴェリルが使っている宿は、入口からして高級そうな宿だった。 思わず深呼吸をして中に入る。 と、いきなり悲鳴に似た声が聞こえた。 視線を動かしその先にいたのは、なんと兄のヴェリル。 「兄貴、、、、」 ソファーの足元に座り込んでいるヴェリルの前には 駆け寄ったソプレーゼと歩き出しだ男がすれ違う。 「兄貴、どうした」 「ソプレーゼ、、、っ」 「先生」 「ごめんなさい。主人は未だに」 「何してる、行くぞ」 苛立った男の声が呼ぶ。 「大丈夫。行ってください」 「でも」 「またこじれてもいけません。本当に大丈夫ですから」 「ごめんなさい、僕があの時」 「君のせいじゃない」 ヴェリルは優しく、子供に向き直る。 「行きなさい」 「すみません。お言葉に甘えます。行きましょう」 こくりと頷き、親子は宿を出て行った。 |
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「ふう、、、、」 「兄貴、これも説明なしなんて言わないよな」 「、、、、、」 「いいかげんにしてくれ。 「ソプレーゼ待ってくれ、場所を」 「お客様」 声が高くなったソプレーゼを止めようとした時 |
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