風が伝えし奏で


数日後、外出から戻ったアウラクアに勤めの一人が駆け寄った。

「あの、統括様」

「またいない間に来客?」

「はい」

「間の悪いこと。わかった、急ぐよ」

先へ進むアウラクアを見ながら小さく呟いた。

「急いでるようには見えないけどな」


部屋に入ると、いたのはシェスタとヴィクトリア。

ヴィクトリアは驚きと戸惑いが混ざった様子で
アウラクアを見ていた。

「待たせてごめんね。どう、ヴィクトリア。元気になった?」

「は、、、はい。あの」

艶のある笑みにロングドレス。

シェスタは彼と言っていたのだから男なのだろうが
姿だけでは女性といわれたほうが納得できる。

そんなヴィクトリアの戸惑いを
アウラクアは対統括という場面での緊張と取った。

「別に統括だからって構えなくてもいいよ。座ってて。
 仕入れてきたばかりのいいお茶があるから」

ヴィクトリアはシェスタを見る。

シェスタはヴィクトリアの戸惑いを正しく把握し
座るよう促した。

ほどなくふわりといい香りが立った。

「どうぞ」

「いただきます」

「いい香りですね。薔薇かな。キエヌのものですか?」

「そう。ほんとは非売品なんだけど、少しわけてもらってね」

「私にはもったいないみたい」

呟きを聞きとめたアウラクアは
瞳を覗き込むように真っ直ぐヴィクトリアを見た。

「謙虚は悪くないと思うけど、あたしは嫌い」

「え、、、」

「アウラクア」

シェスタはやんわりと制止を入れた。

わかていると視線を投げて、アウラクアは続ける。

「綺麗な花でも地面に向かってうなだれてたら
 誰もその美しさには気がつかない。違う?」

「は、、、はい」

無意識でヴィクトリアは視線を外していた。

「自分は美しいって誇示する必要はない。
 それは嫌みになるからね。でも顔を上げて笑ってごらん。
 ヴィクトリアだって十分綺麗だと思うけど」

「、、、、、私より」

「自分と他人を比べて自分を下に見るのは間違い」

「、、、、、」

「同じ花でも大きいもの小さいもの。
 濃い花びら淡い花びらいろいろある。
 同じ花の中で比べられるのは仕方ないことだけど
 違う種類の花を比べて優越はつけられないよ。
 だって、もともとの素材が違うんだもの」

「、、、、、それぞれに持っているものが違うから」

「月と太陽、どっちが綺麗かなんて比べられる?」

「、、、、、無理だと思います」

「月の光は休息を与え、太陽の光は活動の源となる。
 それぞれに違う役目があってよさがある。人も同じこと」

「何となくだけど」

「わかってくれたかな」

「私は、、、、、私でいい」

思い浮かんだ言葉はこれだった。

”自分なんか”と己を非難してしまったら
誰の言葉も聞けなくなる気がする。

ヴィクトリアは一つ深呼吸をすると改めてアウラクアを見た。

無理のない笑顔で。

「ありがとうございます」

「そう、笑っていたほうが誰だって綺麗だよ。
 そうだ、今度ドレス見立ててあげようか」

「え、、それは、、、」

「極上の貴婦人にしてあげる」

違和感なく出てくる言葉。

統括として多少付き合う機会の増えたシェスタでも思う。

本当に男なのかと。

「あなたが男性だということが、時々信じられなくなりますよ」

「私も、、、、何だかお姉さんと話してるみたい、あ、いえ。
 す、、、すみません」

「べつにいいよ。慣れてるし。
 それでと、あたしばかり話ちゃったけど、本題は何?」

「あ、、、、」

「すっかり忘れてましたね。ヴィクトリアさん」

「はい。あの、お手数おかけしたした。
 助けてくださってありがとうございます」

「たいしたことはしてないよ。
 もう、嘆きの渓谷に引き込まれる心配はないね」

「はい」

その返事に不安は感じられない。

安堵感からか、シェスタの眼差しはいっそう優しいものだった。

そこに、ノックの音がした。

「ちょっと失礼」

アウラクアは優雅に裾をさばき席を立った。

「並の女性より綺麗ですよね」

「ええ。本当に」

シェスタとヴィクトリアは改めて囁き合う。

扉のところで2言3言を話したアウラクアは
ソファーに戻ると立ったまま今の要件を伝えた。

「ルトヴァーユ様が来てほしいって」

その名前にピクリと反応が出る。

察したシェスタはヴィクトリアにさりげなく手を添えた。

「では、私たちはここまでに」

「それが、シェスタも一緒なら2人共ってことみたいよ」

「、、、、、イーリスに何かあったか」

自分とアウラクアを一緒に呼ぶのなら
何かしらの動きがあったのだろう。

「アウラクア、先に向かってください。
 ヴィクトリアさんを送り届けてから追いかけます」

「あ、大丈夫です。一人で」

「あなたが嫌でなければ、そうさせてもらえませんか」

「嫌とか、、、そういう、、、」

「甘えちゃいな、ヴィクトリア。男は頼られると嬉しいものだよ。
 特に、気になる女性が相手なら尚更ね」

「アウラクア」

「じゃあ、先に出てるね。
 ヴィクトリア、いいドレス用意しておくから、またおいで」

「は、はい。ありがとうございます」

ソファーを立ったヴィクトリアに軽く頷き
アウラクアは部屋を出た。

「まったく。一言多いのは一生治らないのかな」

「シェスタ様、、、、」

「いえ、あまり気にしないでください。
 人をからかうのが好きとは思いたくないのですがね。ただ」

「、、、、、、」

「腕の中でぬくもりを失っていくあなたを助けたいと思った。
 このまま空の器になどしなくない。
 そして、今あなたが隣にいることを嬉しく思います」

「私、、、、あの」

どう返したらいいのか、戸惑うだけだった。

そんなヴィクトリアを穏やかな水面のように優しく受け止める。

「返事を求めるつもりはありません。
 心のどこかに留めておいてもらえれば」

話の切り上げは自分の役目だろう。

シェスタは軽く声の調子を変えた。

「そろそろ行きましょうか」

「、、、、、はい」

シェスタが自分を。ヴィクトリアは考えもしなかった。

だがもう少しルトヴァーユを想っていたい。

互いにこれ以上は言葉にせず、アウラクアの居城を後にした。

























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