風が伝えし奏で


静寂のみに包まれた妖しの里に、白銀の翼が降りたった。

「たしか、灯りがついている館がそうだといっていたな」

捨てられた隠れ里。

自分たち以外に誰もいないのだから、灯りのついている館を探せばいいといっていた。

その言葉の通り、人の気配は無くしんと静まり返っている。

「空からのほうが早いか。人がいないのなら翼を見られはしないだろう」

ルトヴァーユは翼を翻し空へと向かった。

ほどなく闇の中に灯りが見えた。

「イーリス、、、、」


「羽音?まさか」

聞きつけたのは庭にいたジャステアだった。

ゆっくりと近づく影は白銀の統括ルトヴァーユ。

静かに目の前に降りた。

「ここまでいらしたのですね。連れ戻すおつもりですか?
 イーリス殿は戻るつもりはないと仰っています。
 お帰りください」

拒絶とも取れる声音だった。冷たい氷のような。

ルトヴァーユは膝を折った。

「あなたがイーリスを帰したくないというのは当然でしょう。
 こうなるまで何もできなかった。
 今更だということはわかっているつもりです」

「イーリス殿がこちらにこられた理由はおわかりでしょう」

「わかっているつもりです。
 よくは思わない声を知りながら対処をせずに留め置いた。
 私の考えが足りなかったばかりに、イーリスだけでなく
 他にも苦しめてしまった人がいる」

イーリスとヴィクトリアを苦しめ、向き合った結果
自分はイーリスを選んだのだ。

「同じ過ちはしません。
 イーリスに戻ってもらうために何が必要か考えます。
 そのためにもイーリスと話をさせてください」

「統括様」

「ジャステア、どうか。このとおりです」

白銀が他者に対してはありえない姿だが
ルトヴァーユの思いの強さともいえよう。

元より、白銀の立場に執着があるわけではない。

「立ってください。私は戻っていただきたいのです」

「ジャステア、、、、、」

そう、口ではどう言おうが心は傍らを望んでいる。

「だからこそ、人目を避けて打ち沈んでいるような
 そんな状況であってほしくありません」

ジャステアは星の瞬く空を見上げた。

「私は闇戯様の傍らを望み、叶ってこの地におります。
 今がどれだけ満たされているか。
 イーリス殿とあなた様が互いを望むなら叶ってほしい」

「あなたは、、、、、」

「闇戯様をお慕いしております」

ためらいも、迷いもない。

「罪だというのなら、私は自身の罪と闇戯様の罪を己のものとし
 その罪に殉じることになろうとも後悔はありません」

金色の翼の如くに月光がジャステアを包む。

「言葉でいうほど簡単ではないけれど
 己の想いは忘れずにいようと思います」

「あなたが幸せなら、彼も幸せなのでしょうね」

「統括様」

闇戯の性格なら、嫌っている相手を傍に置きはしないだろう。

闇戯にとっても、ジャステアは特別な相手。

「あなた達に会えてよかったと思います」

唐突とも思える言葉に、ジャステアは小さく首をかしげた。

「自分では気付かない自分のことを気づかせてくれる。
 助けられもしました。ありがとう。
 そしてこれからも、頼らせてもらってかまいませんか」

「私でお力になれるのでしたら」

他者と関わることは傷つけ傷つくこともあるけれど
出会わなければ、関わらなければ生きていけない。

”友人として”

言葉にはしなかったが、2人には同じ感覚が生まれていた。


「外で話し込むには少し冷えると思いますよ」

「闇戯様」

闇戯は庭に下りた。

「ヴィクトリアとは話がついたんですか」

「最後には、迎えに行けばいいと叱責されました」

「そう。まあ、私が言いたいことは
 ジャステアが言い終わっているでしょうね」

「イーリスはどうしていますか」

「場所が場所ですから
 特に変わった何かをすることもありません」

「会わせてください」

「イーリスが拒んだらどうします」

「扉越しにでも話を。
 戻ってほしいとだけは伝えるつもりです」

「それなりの腹は決まったようですね」

「環境を考え直すことも含めて
 戻ってもらえるよう努力はします」

「わかりました。
 ジャステア、案内を。私はもう少しここにいますから」

「はい。どうぞこちらに」

ジャステアとルトヴァーユを屋内に戻した闇戯は月を見る。

「あのアトリエが再び動き出すかもしれない。あなたの望みどおりになったのかな」

遥か時の向こうで眠る相手に問いかけた。


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