風が伝えし奏で


「いつから目が覚めていたんだ」

「ドレスがどうのこうのって、、、、、。
 確かにイーリスは女性からみても
 綺麗だと思うけれど」

言い終わるより早く
ルトヴァーユはヴィクトリアを抱きよせた。

「よかった、、、、、。戻ってきてくれたんだね」

「ルトヴァーユ様、、、、、」

「ルトヴァーユでいい。
 今だけでも昔と同じように呼んでくれ」

シェスタは音をたてないように部屋を出た。


「、、、あなたは白銀なのよ」

「確かにその通りだ。
 変えられないし、投げ出すつもりもない。
 だけど、翼の色が変わったところで
 性格まで変えられるほど器用じゃないよ」

「ルトヴァーユ、、、、」

「白銀になった後、初めて偶然会ったとき膝をついたね。
 これよりはお仕えする立場。今まではお忘れくださいと」 

「もう、同じように接することは許されないと思ったわ。
 だれも横には立てない。それが白銀なんだって」

「あの時、私を見ることもしないで飛び立った。
 追いかけて変わらずに友人でいたいと伝えれば
 君を苦しめることはなかったんだろう」

「友人、、、、そうよね、あなたにとっては」

その言葉がヴィクトリアは苦しい。

だから、これ以上誤魔化すことはできなかった。

「あなたが白銀になるってわかったとき気がついたわ。
 名前で呼んでお喋りができる相手じゃなくなる。
 それが悲しかった。苦しかった。
 あなたにとっては友人でも、私の気持はそれ以上だった」

「ヴィクトリア、、、、、」

「諦めようとしたのよ。誰も隣には立たない。
 そう言い聞かせてたらイーリスの話が聞こえてきた。
 それがだんだん、どこまでが本当かわからない噂話になって
 あなたに対する風当たりが強くなっていく。それで、、、、、」

「、、、、そうだったのか。
 私がはっきりさせなかったから、嫌な思いをさせたんだな」

「ルトヴァーユ、もしも今隣にいたいって頼んだら
 友人じゃなく女として隣に置いてほいしっていったら
 この願いを叶えてくれるの?」

「それは、、、、、」

友人以上の存在。

ヴィクトリアの想いを知った上で共に過ごしたならば
自分も友人以上だと思えるのだろうか。 

この先時間をかければ。

いや、ヴィクトリアの望みが叶う保証はない。

あてのない約束はきっと苦しめてしまう。

ヴィクトリアも、偽りに近い想いを望みはしないだろう。

「あてのない約束は苦しめるだけだろう。私は」

「馬鹿!」

真剣な怒鳴り声が響いた。

「ならどうしてここにいるのよ!迎えに行けばいいじゃない!」

「ヴィクトリア、、、、」

「あなたが隣にいてほしいのはイーリスなんでしょう?
 だから、どう思われようが
 離れを出ろと言えなかったんでしょう?」

「、、、、、、、」

「私を振るくらいなら、正直になるのね。
 悔しいけど、、、、、許してあげる」

「、、、、、ありがとう」

これで気持ちの整理がつくわけではない。

それでも笑顔を交わし、ルトヴァーユは部屋を後にした。





「、、、、、話せるようになるのかしら、これで」

ルトヴァーユ。そしてイーリス。

次に会う時は、どんな顔をするのだろう。

笑顔になれるのだろうか。

それとも、同じように飛び立ってしまうだろうか。

そんなことを考えていると背中で音がした。

優しくシェスタの手が髪をなでる。

「猫みたいですね」

「気を悪くさせてしまいましたか」

「、、、、嫌じゃないです」

「温かいお茶でもいれましょう」

シェスタは静かに立った。

「甘く作りますね。疲れている時は
 不思議と甘いものがおいしく感じられますよ」

ヴィクトリアの返事はなかった。

手元に視線を置いたまま、シェスタはお茶の準備を続ける。

「落ち着いたら、湖を渡った町に行ってみませんか。
 こちらでは見ない風景がいい気分転換になるかも
 ヴィクトリアさん、、、、、、、」

「ごめんなさい。少しだけこのまま」

背中にしがみついたヴィクトリアは震えていた。

「気がすむまで、いいですよ」

「シェスタ様、、、、」

「気のすむまで泣いてしまいなさい。ここにいるから」

「、、、、、、」

「誰のための涙でもかまわない」

包み込むような温かさではなく、強い支えの言葉だった。

叶わなかった最後の願い。

ヴィクトリアは心のままに、声をあげて泣いた。





「いただきます」

「どうぞ」

「、、、、あまり見ないでください。ひどい顔してるでしょう」

泣きはらした顔を見られるのが気恥ずかしくなり
ヴィクトリアはふいと横を向いた。

そんなヴィクトリアにシェスタは微笑んだ。

「あなたが少しでも楽になれたのなら
 私はそれだけで嬉しく思います」

「シェスタ様」

振り向いたヴィクトリアを、美しい瞳が真っ直ぐ見詰める。

「あ、、、ありがとうございます」

違う何かでヴィクトリアの頬が上気した。

「一日、二日休んだら、白の統括にも会いに行きましょう」

「え、、、、」

「彼が手を貸してくれなければ
 傷付けなくていいものまで傷つけたかもしれない。
 あなたを取り戻すためルトヴァーユ様が放った力は
 それだけ強く大きいものだったんです」

「白の統括様にまで、私」

「怒らせたのではないから心配はいりません。
 けれど手を貸してくれたお礼は、伝えないとね」

「はい」

「私も行きますから、大丈夫ですよ」

シェスタの傍ら。

そこは優しくヴィクトリアを包み込む場所だった。

今だからそう思えるのかもしれないけれど
ヴィクトリアはそっと心を委ねてみた。

「今はただ、お休みなさい」

穏やかな声音が優しく響いた。


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