風が伝えし奏で


「私が間違っていたの?でも、他にどうすればよかったのよ」

闇戯の言葉につられ、つい出してしまった想い。

ルトヴァーユの心配をしていることに間違いはないが
イーリスに対する嫉妬もある。

己に対する苛立ち、もどかしさを抱えたまま歩いていた。

すると、声が聞こえた。

「イーリスがいるから苦しいんだよ」

「何?誰なの」

声の主を探して周囲を見渡と、影が浮かんだ。

「あなたの声、悲しそう。それって、イーリスが
 あなたの大好きな人のそばにいるからだよね」

悪戯好きの精霊だろうか。

ふわふわとヴィクトリアの周りで揺れた。

「わかったようなこと言わないで」

「違うの?」

「ほっといてよ」

「いいの?取られちゃっても」

聞きたくない言葉が突きつけられる。

「もう、、、、黙って、、、言わないで!」

ヴィクトリアは思わず耳をふさいで目を閉じた。その瞬間

「その器、もらうよ」

「え、、、、、」

一瞬だった。ものすごい力で引かれ、ヴィクトリアは意識を失った。


「ん、、、、何、今の」

目が覚めたヴィクトリアはゆっくりと起き上った。

「ここは、、、、」

地に足がつく感覚はあるものの、ただの空間。

「ウツワ、、、、」

「ヨコセ、、、、」

聞こえた声にヴィクトリアは、はっとなる。

「まさか、、、、」

「気がついた」

先ほどの影が現れた。

「ねえ、ここにいるみんなを出してよ。
 そしたら、あなたの願いを叶えてあげる」

「お断りよ」

まだ生まれてまもない嘆きの渓谷。

勢力は弱いが、抑えもかかっていなかったのだろう。

迷いと葛藤に付け込まれ、引き込まれてしまったのだ。

「そう、じゃあ器もらうよ」

「渡すものですか!」

翼を広げたヴィクトリアは飛び立った。

追いかけてくる想いを懸命に払う。

乗っ取られれば自我を失う。それはただの操り人形。

ここに揺らぐ魂を外に出すわけにはいかない。

必死に振り払いながら門を探した。

出てすぐに抑えを掛けられるよう、言霊を念頭に置く。

やがて、一点の光が見えた。

「あそこね」

「行かせないよ」

ヴィクトリアは最大限速度を上げて門に向った。

ギリギリ手前で大きく突き放す。

僅かな間でヴィクトリアは外に出た。が

「行かせない!」

一体だけ追いついてしまった。

どうにか翼は収めたが
想いはヴィクトリアに絡み締め付ける。

「う、、、ああっ、、、」

それでも、ヴィクトリアは門に向き合った。抑えなければ。

「天と地の理。世界の礎となる精霊たち」

「やめろ!」

「、、、っ、、ぐ、、、お願い、、、、ちか、、ら、、を、、」

ヴィクトリアの姿を目にとめた数人が遠巻きに集まってきた。

その中にシェスタがいた。

いるのがヴィクトリアとわかり、急いで降りた。

「どうしたんですか、しっかり」

「、、、シェスタ、、、さ、、、」

「ここは」

バチバチと音を立てる門。

ここが何なのか、すぐにわかった。

「自分の不始末は、自分で」

「無茶をしないで。抑えは」

「魂を鍵にしてもいい。封印を!」

「ヴィクトリア!」

バリンと、一瞬で凍りつくような音がした。

ヴィクトリアはシェスタの腕に倒れこむ。

「、、、、、、、」

「私のせいで、、、嘆きの渓谷に揺らぐ想いを放つなんて
 したく、、、な、、、、シェスタ様、、、、おね、、、が、、」

ヴィクトリアのぬくもりが急速に失われていく。

魂による封印をすれば、体は空の器となってしまうのだ。

「必ず、あなたは取り戻すから」

「い、、、いんで、、す、、もう、、、、」

「ヴィクトリア」

「ルトヴァーユ、、、イーリス、、、、を、、、どうか、、、」

「ヴィクトリア!?」

力の抜けた体が沈んだ。

「ルトヴァーユ、、、、か」

友人として、名前で呼び合った頃もあるのだろう。

だがルトヴァーユが白銀として立ったことで諦めようとした。

その葛藤は、どれだけヴィクトリアを苦しめてきたのか。

「すぐに迎えに来ますからね」

ヴィクトリアを抱いて、シェスタは浮島を飛び立った。









   BACK   NEXT