背負うべきもの


リシャールがクロシェ邸に入って一か月。

ゲーム終了の日がきた。

「今日でちょうど一か月だな」

「ああ」

「どっちが勝者だ」

リシャールは頷き、膝を折った。

「私は貴方の忠実な僕。何なりとご命令ください」

「僕の勝ちか」

「完全勝利さ」

立ったリシャールの表情は
迷いの吹っ切れた清々しいものだった。

「お前の行く末を見てみたいと思った。
 お前が当主となったクロシェをな」

偽りのない本心。リシャールは心に誓う。

「我が主、カーネリア・クロシェ様に忠誠を」

「受け取ろう」

静かに、厳かに誓いを捧げた。


それから数日後。

夕食を終えリシャールが見回っていると、カーネリアの部屋から灯りが漏れていた。

扉が僅かに開いている。ノックをするが応答はない。

「失礼いたします」

リシャールは部屋に入った。


カーネリアはチェアーで目を閉じていた。

眠っているのかと、覗き込む。

「いくら大人びてても、寝顔は子供だな」

肌がけを探そうと背中を向けた。と

「可愛げない子供で悪かったな」

「カーネリア?」

振りむいたリシャールに、いつもの眼差しが向いていた。

「眠ってたんじゃないのか」

「目を閉じてただけだ」

「失礼いたしました」

他の使用人なら、慌てふためいて詫びるところだろうが
リシャールは落ち着いて謝罪を入れた。

「休むならベットを作るよ」

「ああ」

ベットメイクを始めた時
今度はカーネリアの父が部屋に入った。

リシャールは居を正し、一礼する。

「リシャール、旅の支度だ。
 明日の朝一番で出立できるように準備をしてくれ」

「父さん?」

「承りました。どちらまででしょうか」

「ソレアの別宅に向かう」

「、、、、まさか、父さん」

カーネリアの声が高くなった。

父は静かに告げた。

「苦しむことなく、静かに眠ったそうだ」

「、、、、、」

天井を仰いだカーネリアを父は抱きしめた。

双方無言で暫くそのままだった。


腕を解いた父は、リシャールに向いた。

「ついていてやってくれ」

「はい」

送り出し、カーネリアを見る。

「カーネリア、誰か亡くなったのか?」

「母さんだよ」

すとん、と、チェアーに落ちた。

「病気で、命はつないでいたけど眠ったままだった。
 眠り姫のようにもう何年も」

「、、、、、、、」

「もう一度だけ、、、、もう一度声が聞きたかった」

無意識だろうか。

カーネリアは唇を噛み、拳を強く握る。

(そうか、、、、あの時の言葉は)

”どんな理由であれ
 自ら命を絶った者に同情はしない”

あの言葉の裏にあったのは
生きていても目覚めることのない大切な人への想い。

その悔しさ。

そんなカーネリアの前で自分は死のうとしたのだ。

「カーネリア」

「一人にしてくれ」

カーネリアは遮った。肩に乗りそうだった手が止まる。

「出来るわけないだろう」

「10分、いや5分でいい、一人にしろ。命令だ」

「、、、、、わかった。5分で戻る」

時計を確かめ、リシャールは部屋を出た。


きっかり5分で室内に戻った。

「、、、、ほんとに5分ちょうどだな」

「廊下にいた」

「そう。始めるぞ」

「カーネリア」

背中を向けたカーネリアの腕を引く。

「こんな時まで強がるな。
 涙まで忘れたわけじゃないだろう」

カーネリアは動けなかった。

「こっちを見ろよ」

「、、、、、、怖い」

「何がだ」

「泣いてしまったら
 僕はカーネリア・クロシェじゃいられない気がする」

「お前、、、、、」

リシャールは自分の方を向かせた。

そしてカーネリアを抱きしめる。

「涙を忘れた人間に誰がつき従う。
 そんなやつを主と認める使用人がいると思ってるのか」

「、、、、、、」

「お前がカーネリア・クロシェでいるために
 涙は必要なんだよ」

「泣いても、、、、いいの」

「泣き顔を見られたくないならこのままでいい。
 だから今は子供に戻れ」

「、、、、、、」

「あの夜お前がいてくれたように
 気がすむまでこうしてる。
 お前がカーネリア・クロシェでいるために
 出来ることはする」

「リシャール、、、、」

「誰が何を言おうと、カーネリア・クロシェはお前だけだ」

涙の止まらないカーネリアを
リシャールは優しく抱きしめた。


翌日の早朝にはキエヌを発った。

カーネリアも、カーネリアの父もほぼ無言だった。

ソレアの別宅で眠る奥方の前で、リシャールは改めて誓いを立てるのだった。


「リシャール、行くぞ」

「はい」

クロシェの次期当主として変わらずの多忙な日々は続いた。

だが、大きな違いが一つある。

それは、リシャールが常に傍らにいること。

一日の終わりには、やわらかなお茶の香りがカーネリアの疲れを癒したという。

優しさと、強い心に包まれて。


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