背負うべきもの


更に数日。ゲームは淡々と続いた。

そして次の課題が仕上がった。

「、、、、やり直せ」

時間をかけて目を通したカーネリアは
リシャールにつき返した。

「誤字、脱字、数字も合っていない部分がある」

「わかりました」

覇気のない声が返った。

「原因は自分でわかってるのか?」

「寝付きが悪いだけだ。大したことじゃない」

悪夢はより深刻になっているのだろうか。

カーネリアはこの時初めて言葉に出した。

「昔の恋人の夢でも見てるのか?」

踏み出したリシャールの足が止まった。

「聞いたよ。この前の客から」

「そうか」

「一生恨み続けて生きていくつもりかもしれないけど
 それで何が残る。結局は自分が苦しいだけだろう」

「許せと?あいつが殺したようなものなんだぞ」

「そこまで踏み込むつもりはない。
 だが言ったはずだ。支障はきたすなと。
 今渡しているのは実際に使う数字だ。
 正確に仕上げてもらわないと困る。
 それに、このゲームを最後までやると言っただろう。
 自分が言っただけのことはしてもらおうか」

カーネリアは強かった。呆れるほどに。

「クロシェにとっての損得勘定。それが第一か」

「、、、、、、」

「呆れるほど強いなお前」

リシャールには冷徹に見えるだろう。

それはカーネリアもわかっている。

だが、優しく慰めるのは己のやり方ではない。

「これが僕。カーネリア・クロシェだ」

カーネリアは言いきった。

「優しく慰めてほしいなら、リタイアして他をあたるんだな」

「、、、、、これは仕上げる。だが」

カーネリアの強さは、今のリシャールにとって重い。

「それも選択の一つか」

「、、、、、」

「これが上がったら考えてみるよ」

リシャールは部屋を出た。










「、、、、どうしたら、あそこまで強くなれるんだ」

歩きながら、リシャールはカーネリアのことを考えていた。

クロシェの次期当主として間違ってはいないだろう。

強さが必要なことは確かだ。

しかし、他者に同等を求めるのは酷ではなかろうか。

考えながら歩いていたすぐ前を、影が過ぎった。

ぶつかりそうになり、リシャールは慌てて足を止めた。

「失礼いたしました。旦那様」

「リシャールか」

相手はカーネリアの父だった。

「少し話がある。部屋へ」

「はい」

そのまま従い、リシャールは当主の部屋へ入った。


「ここ暫くカーネリアを見てきて、カーネリアをどう思った」

「それは、、、、、私は申し上げる立場ではありません」

「思ったままでいい。聞かせてくれ」

カーネリアの強さは父譲りだろう。

大柄な体格ではないが、他者に対する威厳は申し分ない。

リシャールはゆっくり口を開いた。

「クロシェの名を背負うものとして
 その自覚を十分持っておられます。
 常にクロシェのことを考えて行動される。
 、、、、、強い方です」

「、、、、、、」

その口調から、褒め言葉と違うことは感じ取られた。

「その強さがお前を傷つけていたのなら
 カーネリアを育てた私の負でもあるのだろうな」

「いえ、そのようなつもりでは」

「生きるため、己を守る盾になればと
 強く厳しく育てた。
 間違っているとは思わないが
 カーネリアが休める場所を作り忘れてしまったようだ。
 私のことも、親としてではなくクロシェ当主として見ている」

「旦那様」

「カーネリア付きは気苦労も多いだろう。
 実際、自分には荷が重いと何人も辞めていった」

「カーネリア様は理由をご存じなのですか」

「気がついているだろう。要求が厳しいことは。
 だが、態度を和らげろと言ってしまったら
 それは今のカーネリアを否定してしまう。
 カーネリアを育てた己を否定し、カーネリアを傷つける」

これもまた、父の愛し方だった。

今のカーネリアを受け入れること。

「カーネリアは誇れる息子だ。
 けれど、共に歩くのが重荷なら無理はしなくていい」 

「共に、、、、しかしカーネリア様に
 つき従う下僕をお探しなのでしょう」

「形式上はそうならざるをえまい。
 しかし、内実は違う。
 カーネリアの支えとなり助け、共に歩く誰かを
 傍に置いてやりたいのだ。
 与えてしまった厳しい道を、進むためにな」

「私には、、、、」

務まるのだろうか、自分に。

カーネリアが進もうとしているのはイバラの道。

それでも怯まないカーネリアを支える力があるのだろうか。

「わかりません。まだ」

「急がなくてもいい。
 カーネリアのため、自分のためによく考えてくれ」

「はい。失礼いたします」

下がるリシャールを見送り
父が向かったのは息子の部屋だった。


「カーネリア、入るぞ」

父の声を背中で聞いた。

「父さん、、、、僕は間違ってないよね」

「ああ。クロシェを継ぐ者としてお前を育てた。
 誰が何を言おうと、お前は誇れる息子だ。
 堂々としていろ」

声に振り向いたカーネリアを見つめていたのは
厳しいけれど強く、自分を抱きしめてくれる父。

「ありがとう、父さん」

「ペネロープから新しいリーフが届いている。
 お前もどうだ」

「行きます」

認められることは存在の証。

クロシェの名を背負い、カーネリアは歩みを進めた。


 BACK