旋律の裏側


「遺品だなんて、そんな大切な物を頂くわけには」

「私が持っていても、この旋律は響きません。
 父が弾いていたのかもわからない。
 少なくとも、私は見たことも聴いたこともありませんし
 この譜面の存在すらも知りませんでした。
 しかも、でてきたのはこれ一枚きり。
 名前らしきものも一切無しです」

「、、、、、」

「かといって、何処かに持ち込んで
 調査までのことは考えていません。
 ここでお会いしたのも、何かの縁でしょう。
 嫌でなければ、お持ちください」

サインもないということは未完成だろうか。

アリエルの父が弾き手でないなら
何故一枚の譜面を、人知れず持っていたのだろう。

疑問は様々浮かぶ。

そして、疑問はアルドの興味を引いた。

旋律の裏側に込められた想いに触れてみたい。

「わかりました。お預かりします。
 次回に間に合ったら弾いてみますね」

「ええ。お願いします」

こうして一枚の譜面がアルドの手に渡った。


譜面を持ち帰ったアルドはさっそく広げてみた。

丁寧に音を拾っていく。すると

「これは、、、、」

どこか覚えがあるような気がした。

最後まで追い音を出してみる。

思い出した。この曲が何なのかを。

「まさか、、、嘘だろう。こんなこと」

バイオリンを置き別の譜面を出した。

弾き手だった父が残したものだ。

2枚を並べてみる。

この2枚が描く旋律は、ほとんど同じだった。

「彼の父親が、、、、」

自分の父が残した旋律は悲しみと悔しさ。

では、アリエルの父が持っていた旋律には
どんな想いが込められているのか。

実際この曲を誰が作ったのか。それを知りたい。

アリエルの父なのか。また別の誰かか。

アリエルの父でなければ辿りつくのは難しいだろう。

それでも、何もせずにはいられなかった。

父の想いを知っているから。

「もう少し突っ込んでみるか」

アルドはバイオリンをかまえ、2つの旋律を奏でた。


2回目のコンサート。この日も多くの人が集まっていた。

会場にはオルガとフィータもいた。

定刻となりアルドが壇上に立った。

弾いた1曲目はアルエルから預かった譜面の曲だ。

人々は静かに耳を傾け、フィータも目を閉じた。

しばらくそのままだったが
曲の途中でフィータが目を開けた。

「これ、、、、」

「フィータ?」

一歩出たフィータはアルドを見つめる。

「どうした。この曲知ってるのか?」

どこか、覚えがあるような気がする。

しかし、いつ何処で。

フィータの視線に気が付いたアルドが返した。

静かにただ見つめる眼差し。

そして1曲目が終わり、2曲目が始まった。

「フィータ」

「、、、、何でもない」

言葉の裏側に何かを隠すような
駆け引きができるフィータではない。

追及はせず、そのまま演奏に耳を傾けたが
どこか引っ掛かったような、そんな表情は
最後まで抜けることがなかった。


コンサートを終えたアルドは、アリエルの部屋に足を向けた。

「お疲れさまでした」

「どうも。この前預かった曲、弾かせてもらいましたよ」

「そうですか」

「アリエルさん、あの譜面はあなたの父親の遺品で
 見たことも聴いたこともない。そうでしたね」

「ええ」

「本当に、ただの一度もありませんか」

「アルドさん?」

一回目の時とは様子が違う。

いうなら、硬さを伴った強い意志だろうか。

それだけ真剣な、思いつめるような何か。

アリエルも向き合った。

「この前お話したとおり、本当です」

「これを、見て下さい」

アルドは2枚の譜面を置いた。

「拝見します」

アルエルは2枚を手に取り見比べる。

「、、、、同じ、いや多少は違うか。
 それでも似すぎていますね。これは」

「一枚目は先日預かったもの。
 もう一枚は、私の父が残したものです。
 偶然でないとすれば、どう思いますか」

酷似している譜面が2枚。別の人の手にあった。

よくとれば、複写か下書き。

しかし悪く取れば、もう1つの見方がある。

盗作の可能性だ。

むしろ、その方が現実味を覚えた。

「あなたの父は、この譜面について何を」

「昔、師匠について学んでいた時に
 課題として与えられ作った曲だそうです。
 しかし、学友が父の作品を盗用し先に出したと聞いています」

「、、、、、」

「父は最後の最後まで、その相手を許さなかった。
 この曲は、そんな悔しさを秘めた曲なんです」

「では、父が」

「相手の名前は聞いていません。
 こちらにサインもなく、あなたが何も聞いていないなら
 断定はできませんね。ただ、弟さんはどうです」

コンサートでのフィータの反応。

何かを知っているかもしれない。

「弟さんと話をさせてもらえませんか」

「フィータは」

アルドの気持ちはわかる。

確かめたいと思うのは当然だろう。

しかし、フィータが何かを知っていたとしても
アルドに上手く伝わるだろうか。

アルドのためにも、曖昧な返事はさせたくない。

「私のほうで訊いてみます。その結果を待って下さい」

「何故直接ではだめなんです。
 あなたにそのつもりがなくとも、間に人が入れば
 正しく伝わらない可能性だってある」

「仰りたいことはわかります。
 ですが、フィータとの会話には慣れが必要なんです。
 曖昧な返答にはしたくない。
 だから少しだけ時間をください。
 聞いたことはそのまま伝えると約束します」

市場でのフィータを思い出した。

知りたいことを引き出すには
それなりの技術が必要ということか。

「、、、、わかりました」

アルドは逸る気持ちを抑え頷いた。

「では、今日のところはこれで。失礼します」

「はい。確かに預かります」

見送ったアリエルは1つ息をついた。

両親の死は突然の事故だった。

フィータには、何かを話していたのだろうか。

それとも、言葉通り墓まで持って行ってしまったのか。

何か1つでも伝えられればいいと願いながら
アリエルは過ぎた昔を思った。
























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