ささやき
|
資材置き場で感じた匂い。 引っ掛かりを残したまま家に帰った。 リビングに入ったフィエラは 「これだ、、、、」 そう、同じ匂いがしたのだ。 「紅響、いる」 「はい」 キッチン奥から紅響が出てきた。 「お帰りなさい」 「ただいま。この匂い何だっけ」 「匂い、、、ですか」 言われた紅響は小さく鼻を動かした。 「ああ、これならいつもの油ですよ。 フィエラも思い出した。 「そっか、、、灯り取り使ってるんだよね。 「はい。混ぜる前ですから、油に近い匂いが 気分を悪くさせたかと、紅響は戻ろうとした。 「ちょっと待って」 フィエラは戻る前に呼び止めた。 「少し教えて」 「わたくしでお役に立てるのならお答えしますが 「うん、、、、工房で気になることがあって」 感じたのは戸惑い。 気になることがフィエラを不安にさせているのなら 「座ってください。お茶だけ用意しますから」 甘い茶葉を選び、若干ぬるく作る。 それをテーブルに置き隣に座った。 「どのようなことですか」 「さっきの油って、他に使い方ある? 「塗料、、、、いえ、聞いたことありませんね。 「、、、、、」 「ですから、油としては灯り取りだけです。 「何でそんなものが」 紅響の言葉を疑いはしない。 同じものが塗料に混ざっているのだとしたら 一度疑いだすと、考えは悪い方向に向いた。 「フィエラ、、、、大丈夫ですか」 「工房の塗料から、同じ匂いがしたんだ」 フィエラは正面を見据えたままだった。 「勿論、匂いが似ているだけで そんなフィエラの不安は、紅響にもわかった。 紅響はそっと、フィエラに手を重ねる。 「一度悪い方に考えてしまうと 「うん」 「今の段階では、どちらとも言えないのでしょう。 「そうだね。一人で考えててもしかたないよね」 不安な面持ちが和らいでゆく。 「ありがとう。紅響。 「ええ。そうしてください。 固まっていた嫌な物が、ゆっくりと溶けるようだった。 重なった手を大切にしたい。 フィエラは心から、そう思った。 |
![]() |
![]() |
|
![]() |
|
翌日。フィエラは再び資材置き場に行った。 「やっぱり同じような気がする」 塗料に関わる同僚からは やはり人の手が入っているのか。 瓶とにらめっこをしていると 「何やってんだ、フィエラ」 「凪」 背中から声をかけてきたのは凪だった。 「俺が入ってきたのにも気がつかないで 「え、ごめん」 「別にいいけどさ」 凪は自分の探し物にはいった。 (自分だけで考えててもしかたない。そうだよね) 紅響の言葉を思い出し、一息ついて凪を呼んだ。 「凪、ちょっといい」 「ん?どうした」 「見てもらいたい物があるんだ。あれ」 フィエラは問題の瓶を指す。 凪は瓶に近づいた。 「これって、塗料だろう」 「うん、そうなんだけど驚かないでね」 フィエラは自分の気がついたことと紅響の話を 凪は驚いたというよりも険しい表情をみせた。 「それじゃ、この中に火種を入れたら火事になるのか?」 「混ざってる量にもよるだろうけど、可能性はある」 「誰がそんな、、、、 工房の中の誰か。 考えたくはないが、最も妥当な線だ。 けれど今は、犯人探しよりも危険を回避しなければ。 「まだ油だって断定はできない。 「じゃあ、どうするつもりなんだ。 「勿論だよ。犯人探しじゃなくて 「騒ぎになれは、物に影響もでるな。 手作業だからこそ、作品は心を映す。 凪もフィエラも、それはよくわかっていた。 「親方に相談したいんだけど 「勿論だ。断るはずないだろう」 凪は考えることなく返した。 「工房を壊されてたまるか。ここは俺たちの誇りだ」 「凪、、、、」 「行くぞ」 「うん」 資材置き場を出た2人は、親方の部屋へと向かった。 |
![]() |
![]() |